"末席の男が放った三百億の通告" 第16話
胸ポケットから革の帳を取りし、挟み込んであった久エリの名刺を再び引き抜く。
『げに来る、パパに通しとく』
デスクスタンドのいのに晒されたその文字は、どこまでも幼稚で、歪んでいた。
名刺を帳の奥へと戻し、カバンの底へと押し込む。
窓のを見ろすと、とほとんど変わらない、寂れた駅の夜景が広がっていた。母の眠る寺は、あの灯りの途切れた、真っ暗な裾のあたりにある。
昼に洗ったたい墓は、今頃もう夜に濡れているだろうか。
俺は朝の始発幹線の刻をスマートフォンの画面で確かめると、画面を伏せてベッドに倒れ込んだ。
翌朝、午ちょうどの始発の幹線に乗り、京へと戻った。
、曜。
世はお盆休みの真っ只だったが、などの融関は通常通りに営業している。その酷な事実を、俺はこれまでので、このほどく識したことはなかった。
午ちょうど、港区にあるあさぎホールディングス本社の最階、階の第会議の扉をけた。
に京タワーと都のビル群が広がる、窓の広い会議だ。
テーブルの央には、財務責任者の柴田政治がすでに背筋を伸ばして着席しており、元には分い資料とプリントアウトされた数字が然と並べられていた。
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その向かい側には、創業期からの番であり、普段から滅にをかない副社の井が、腕を組んで静かに座っていた。
そしてテーブルの央に置かれたスピーカーフォンからは、「おはようございます」と、話会議で接続されたの社取締役の声がく響いていた。
「おはよう。盆休みの朝から、すまないな」
俺が着を子の背に掛けて席に着くと、柴田が鏡の位置を指先で直し、枚の資料を滑らせるように俺のへと差しした。
「王に預託している、が社およびグループ各社の資覧です。今朝午点の最残で算いたしました」
柴田は、を切交えない淡々とした声で読みげた。
「グループ全体における預託総額は、約百億円。内訳といたしましては、取引先への決済用座に百億円、普通預座に億円、定期預に億円、そして期運用の譲渡性預(CD)が億円。計で、ジャスト百億円となります」
「決済座の百億というのは、どういう性質のものだ?」
井がをいた。元員である柴田の図を完全に理解したで、あえて話のの取締役のために確認を促す問いだった。
「仕入れ先や業務委託先への次決済、ならびに売入に使用している当座決済座です」
柴田が資料の該当を指先でトントンと叩いた。
「無利息である代わりに、融関が破綻したでも預保険法により全額が保護される座です。つまり、百億円のうち、公に全額が保全されているのは、この決済座の百億円のみとなります。残りの百億円につきましては、保護されるのは法につき元本千万円とその利息まで。実質に、万がの事態においては、ほぼ全額が無防備にリスクに晒されている状態です」
柴田はそこで度言葉を切り、鏡の奥の鋭い線で俺を見つめた。
「期運用の億円はヶものの譲渡性預ですので、こちらは途解約が制度能です。満期を待って順次回収する形になります。定期預の億円はものですが、こちらは途解約が能です。ただし、途解約利率が適用されるため、当初予定していた利息は幅に目減りいたします」
「……構わない」
俺は切の躊躇なく言い切った。
「定期預は本付で途解約を申し入れる。全額、へ分散して移する」
会議の空気が、シンと静まり返った。スピーカーフォンの向こう側からも、擦れの音つ聞こえてこない。
「……社」
柴田が静かに問いかけてきた。その声は、いつも通りの沈着静なトーンだった。
「資引き揚げの、具体な理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「メインバンクの経営トップの肉親が、個なと優越から、法取引の止を脅迫の具としてにした」