"末席の男が放った三百億の通告" 第12話
俺は何も言わなかった。元のスマートフォンの画面には、柴田政治宛ての送信履歴が静かに残されている。
『王との預・決済座をへ全額移する準備をめたい。朝、役員会で確認する』
冗談で打ったのではない。
だが、りに任せて打ったのでもなかった。
俺をかしたのは、この宴会に入った瞬から、俺ので段ずつ酷に積みがっていった「経営者としてのえ」だった。
私な酒の席で、自の名刺を配り歩く。
公衆の面で、顧客の取引関係をにする。
取の裁量という私な便宜を装い、利の優遇を約束する。
社の借入報を、個の席順の求に利用する。
そして――取の娘というを利用して、顧客に対して取引の止を脅迫の具としてにする。
実際に止できる権限があるかどうかなど、問題ではない。介の次に、法の取引を止する権限などないことくらい、俺には百も承だった。
問題なのは、それを『公然とにできる』という、その組織の腐敗したそのものだった。
経営トップの肉親が、酒の席で顧客の取引止を平然と脅しの具に使える――そのような内部統制の崩壊したに、グループの血税である切な資を集させておくことが、千の社員の活を預かる経営者の判断として、果たして正しいのか。
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――断じて、正しくない。
俺は経営者としてそう判断した。判断したからこそ、柴田にメッセージを送ったのだ。
りと判断は、俺ののでは完全に別の引きしに収められている。この夜、俺がけたのは、徹な『経営判断』の引きしだった。
百億円という巨額の資を、個のみや論でかすつもりなど毛ない。実際にかすかどうかは、朝、財務の専である柴田や取締役たちと数字を突きわせ、リスクを客観に精査したで決定する。
それまでの実務な段取りをえておいてくれと、柴田に頼んだ。ただそれだけのことだった。
「おい弘、百億ってさあ」
岡崎が、まだ笑いの引きつった顔で話しかけてきた。
「万の違いだろ? 百万円の定期預だろ?」
「……そうかもな」
俺は否定もしなかった。否定する必性をまったくじなかったからだ。
百万円だろうが百億円だろうが、この円卓に座る彼らにとっては同じことだった。最初から信じる気のないは、提示された数字の桁がいくつであろうと信じはしないのだ。
取り巻きの女のが、スマートフォンを取りして素いつきで画面をフリックし始めた。同窓会のグループLINEに、今起きたこの滑稽なやり取りをリアルタイムでき込んでいるのだと直した。
『百億解約だって(笑)』と打ち込むその指先が、刻みに震えていた。
エリが、元の革の名刺入れを再びいた。
から純の名刺を枚抜き取り、バッグから取りした油性のボールペンを構える。そして、テーブルのに名刺を裏返しにして置くと、太い丸文字で何かをさらさらとき殴った。
背から覗き込んだ取り巻きの女が、「キャーッ、ひどい!」と甲い声をげて笑う。
通の向こうから、隣の卓での挨拶を終えた松本が、険しい表でこちらへ戻ってくるのが見えた。
エリはき終えた名刺を差し指でパチンと弾き、テーブルクロスのを滑らせて俺のへと突きした。
「はい! 零細企業の社さんは、パパに泣きついてげに来るとき、これも持ってきなさいよね!」
名刺の表面には、誇らしげなゴシック体で印刷されていた。
『王 本経営企画部 次 久エリ』
そして、裏返されたい余には、ボールペンの太い丸文字で、こう殴りきされていた。
『げに来る、パパに通しとく』
丸っこく、幼さの残る跡。
、教の黒板の隅に、直の名をいていたあの文字と、寸分違わぬ悪だった。
俺は無言のままその名刺を指先でつまみげ、表面の肩きと、裏面のきの文字を、度ずつ徹な線で確認した。
そして、着の内ポケットから使い古した革の帳を取りし、その名刺を静かにページのへと挟み込んだ。