"末席の男が放った三百億の通告" 第11話
そして、本の経営企画部で次という責任あるポストに就いているが、顧客に対して『うちのお客さん』と蔑むように呼び捨てる。
俺の脳裏に、再び財務責任者の柴田の真面目な顔が浮かんだ。柴田であれば、員がこの言葉を吐いた瞬に、即座に席をって取引止の続きに入っていただろう。
「零細企業ってさ、に嫌われたら発で終わりだから変よねー! 今のうちに、パパにげといた方がいいんじゃない?」
背で岡崎が品に笑った。取り巻きの女たちも同調して笑う。隣の円卓にいた数も、騒ぎを聞きつけてこちらを振り返り、ニヤニヤと見物するように眺めている。
嘲笑の渦ので、貞子だけが唇を真文字に結び、きつせずにを見据えていた。
「……そうかもな」
俺はを交えずにく答えた。それ以は何も言わない。
俺が切言い返そうとしないのを見て、エリはさらに調子に乗ったようにを乗りしてきた。
「ていうかさ、さっき社員何って聞いたとき、『もうしいる』って言ったよね? それって何なの? ?」
「よりは、いよ」
エリはわざとらしく指を折って数える仕をした。
「へえー、じゃあ? すごーい! じゃあ、分の料、王から毎振り込んでくれてるんだ! ありがとねー、お客様!」
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エリは両を胸のでわせ、げさにをげるふりをして見せた。取り巻きの女たちが、を叩いて甲い笑い声を響かせる。
そのとき、隣に座っていた貞子が、静かにをいた。
「エリ」
エリは線を向けようともしなかった。
「何?」
「……もう、やめたら?」
「何が?」
エリは貞子の方をほんの瞬だけ瞥し、すぐに嘲笑を浮かべて俺へと線を戻した。
「私、今うちの事なお客様と話してんの。図館は黙っててくれる?」
貞子はそれ以何も言わなかった。だが、テーブルクロスので、彼女の細い指先が固く固く握りしめられているのを、俺は見逃さなかった。
そこから先は、もはや会話と呼べるようなものではなかった。
エリが方にまくしたて、俺がく相槌を打つ。ただそれだけのが続いた。
「の会社ってさ、資繰りとか超変でしょ? うち、企業向けの融資審査、すっごく厳しいからさー」
「そうらしいね」
エリはさらにを乗りした。ワンピースの袖のが、井の照を反射してギラギラとる。
「『そうらしいね』じゃなくてさ! もっとげなよ! 現役取の娘が、目のに座ってあげてんのよ?」
「……をげる理由が、ない」
俺の声は決してきくなかった。円卓の周囲数にしか届かないほどの、静かなトーンだった。
だが、その言葉を聞いた瞬、エリの細い目がすっと吊りがった。
「……は?」
「と取引をするのに、取の娘というだけのにをげる理由は、何つないとうが」
円卓の周囲から、潮が引くように音が消えた。
背にっていた岡崎が、持っていたグラスをテーブルの端にことりと置いた。取り巻きの女たちが、息を呑んでエリの顔を窺う。
エリは、元のワイングラスをゆっくりと持ちげた。そして、唇の端を吊りげ、氷のようにたい笑みを浮かべた。
「そんな態度なら、パパに頼んで取引打ち切るけど?」
グラスを胸のさに掲げたまま、エリが言った。
「本当に余裕でしょ。パパに頼んで取引打ち切ってもらうから」
円卓の同級たちが、再び調子を取り戻したようにどっと笑った。
俺は何も言わず、着の内ポケットからスマートフォンを取りした。そして、あらかじめいてあった画面に、財務責任者の柴田へ向けた指示を打ち込み、送信した。
送信完の文字を確認してから、俺は顔をげた。
「じゃあ――百億、全部解約で」
笑い声が、再びピタリと止まった。
誰かのグラスの氷が、乾いた音をててさく鳴る。
「……は?」
エリのが、の抜けたようにいたまま静止した。そして次の瞬、弾けるように笑いした。
「あっそ! 勝にしたら!? 百億? バッカじゃないの!」
隣で岡崎がバンとテーブルを叩いた。
「百億って盛りすぎだろ! おい弘、ハッタリかますのもいい加減にしろよ!」
笑い声が、さらに品なボリュームとなって戻ってきた。