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"末席の男が放った三百億の通告" 第5話

「えー、本は盆のお忙しい、こうしてお集まりいただき、本当にありがとうございます! 卒業から。誰が何になったとか、どの会社で偉くなったとか、そういう野暮な話は名札に任せて、今夜だけは、あのの教に戻って語りいましょう!」

割れんばかりの拍が湧き起こり、百のグラスが斉に宙へと掲げられた。俺も元のビールのグラスを静かに持ちげる。ちる琥珀の泡の向こう側に、台最列の座の卓が見えた。エリの鮮烈な赤いワンピースが、照を浴びて傲に揺れていた。

乾杯の図が終わると同に、宴会の関係は流なものへと変わった。々は席をち、恩師の卓へ、あるいは仲の良かったグループの卓へと移を始める。

だが、久エリのきは、単なる旧友との歓談とはらかに異質だった。

それは「回る」というよりは、獲物を狩るための「巡回」だった。にした革の名刺入れをパカパカと閉させながら、彼女は卓から卓へと練り歩いていた。

俺の座る円卓のすぐ隣の卓へエリが差し掛かったとき、岡崎がハイボールのグラスを片にを乗りし、彼女を呼び止めた。

「エリちゃん、ちょっといい? 実はさ、うちの産会社、王にメイン座置いてるんだよ」

エリはを止め、計算された完璧な営業スマイルを作って振り返った。

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「あ、そうなの? いつもお世話になってますー」

岡崎は周囲の同級に見せつけるように顎を突きし、さらに声を張りげた。

「でさ、ちょっと相談なんだけど、定期預の利とか、借入の枠とか、もうちょっとなんとかなんないかな? エリちゃんのパパにひとこと言ってもらえれば、しは融通利くでしょ?」

エリは自げに喉を鳴らして笑い、岡崎の肩をポンと叩いた。

「パパに言えば、そんなのしは融通利くに決まってんじゃん! 今度、詳しい類持ってきなよ」

「マジで!? さすが取の娘!」

岡崎が歓声をあげると、同じ卓にいた別の男が「俺も俺も!」「うちのも頼むよ!」と卑屈にを挙げた。エリは名刺入れから際よくい名刺を抜き取り、男たちのに滑らせるように置いた。

「いいよー。規の座作って実績積んでくれたら、話はもっといから!」

俺は、元にあったビールのグラスをことりと静かに置いた。

の利や融資条件というものは、取個の嫌や、ましてやその娘の言でくようなものでは断じてない。融関としての厳格な審査基準、信用格付け、担保評価、リスク管理の規定に基づいて厳密に決定されるべきものだ。

その原則を、王の本経営企画部に所属する次であるこの女が、誰よりも熟していなければならないはずだった。

それを、酒の席の戯れ言とはいえ、公衆の面で軽々しくにする。冗談であっても、融関に籍を置くプロフェッショナルが絶対ににしてはならない類の、最の軽率さだった。

俺の会社の財務責任者を務めている柴田政治の顔が、脳裏をよぎった。

柴田は、かつて都の融資畑で辣腕を振るい、定を待たずにうちの会社へと移籍してきた男だ。その柴田が、癖のように俺に言い聞かせていた言葉がある。

『社、が売っている商品はじゃありません。信用です。ならどこのにだって同じものが転がっています。信用を失ったは、ただの屑のを抱えているのと同じなんですよ』

柴田がもしこのにいたら、違いなく眉つかさず、胸ポケットから帳を取りしていただろう。そして、徹な致で付と、刻と、発言者の所属と氏名を克に記録したはずだ。

だが、エリの暴はそれだけにとどまらなかった。

彼女が次にを止めたのは、受付の仕事を終えてようやく自分の席に戻ろうとしていた、幹事の松本のだった。

「ねえ、松本くん。松本くんの会社って、うちから資材の仕入れ資借りてるでしょ?」

松本は元の建設資材商社の営業マンだ。会社の資調達や借入の権限を、平社員である松本が握っているはずがない。

松本の顔が、瞬で引きつり、張った。

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