みかん小説
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"末席の男が放った三百億の通告" 第1話

「そんな態度なら、パパに頼んで取引打ち切るけど?」

い赤のワンピースの袖にあしらわれたの飾りが、ホテルのシャンデリアのを反射してぎらりと瞬いた。久エリは、に持ったワイングラスを胸のさまで掲げたまま、唇の両端だけを釣りげて細い喉を鳴らした。

百余りがひしめくホテルの宴会。ぶりに顔を揃えたの同窓会で、俺は番奥の壁際に押し込められた円卓の、昔と寸分違わぬ席に腰をろしていた。

「本当に余裕でしょ。うちのパパに頼めば、こんな零細の取引なんて発で打ち切ってもらえるんだから」

エリの背に侍るようにっていた岡崎が、待ってましたとばかりに喉を震わせて声をあげた。それに呼応するように、円卓を囲む数の同級たちがどっと品な笑い声をてる。彼らの線は、俺がにつけている量販のくたびれたスーツのと、テーブルのに置かれた物のボールペンを舐めるように往復していた。

俺は誰の目も見返さず、表つかさなかった。ゆっくりとを伸ばし、仕ての緩い着の内ポケットへと滑り込ませる。指先が触れた黒いスマートフォンのたい触を確かめ、静かに引き抜いた。テーブルので縮ダイヤルをき、あらかじめ決めてあったい文章を親指だけで打ち込む。

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画面の【送信】のアイコンを迷わず押し、完の文字がく浮かびがったのを見届けてから、ゆっくりと顔をげた。

線をエリの勝ち誇った瞳の真正面に据え、息を静かに吐きす。

「じゃあ――百億、全部解約で」

円卓の空気が、まるで氷を浴びせられたかのように凍りついた。

弾けるように響いていた品な笑い声が、途切れたテープのようにぴたりと止まる。隣の男のが刻みに震え、持っていたハイボールのグラスのでカランと乾いた氷の音が鳴った。

「……は?」

エリの赤い唇が、嘲笑の形のままぽかんといた。数秒の空ののち、彼女は自分のを疑うように眉を吊りげ、弾けるような甲い笑い声を気に撒き散らした。

「あっそ! 勝にすれば? 百億? 何言ってんの、この!」

エリの隣で、岡崎がバンと派な音をてて円卓の縁を掌で叩いた。

「おいおい弘、百億って盛りすぎだろ! 桁がつくらい違えぞ!」

引きつった笑い声が、波のように円卓へと戻ってきた。誰もが馬鹿にしたように肩を揺らし、互いに顔を見わせては「百億だってよ」「見栄張るにも限度があるだろ」と々にささやきっている。

俺は何も言わなかった。反論もせず、弁もせず、ただ机のに伏せたスマートフォンの黒い画面を見つめていた。その液晶の裏側には、確かに送信済みのが残されている。

翌、この女の父親が取を務めるから、京にある俺の会社へ話が百件以鳴り響くことになる。その凄惨な現実を、この賑やかな円卓の誰も、まだ誰として像すらしていなかった。

俺の名は、堀弘。歳になる。

京の港区に本社を構え、物流、型倉庫の運営、そして通信販売の発送業務やシステム管理をに引き受ける裏方の企業グループを経営している。持ち株会社の名は、あさぎホールディングス。

グループ全体で抱える正社員と契約スタッフをわせれば、員はおよそ千。の売はグループ全体で千億円に達する。ただし、株式はしていない。事業の性質、表台につ必がまったくなく、社名に俺の姓である「堀」の文字は文字も入っていない。経済誌のインタビューやテレビの経済番組のオファーも、創業以来すべて断り続けてきた。

だから、俺の顔を見てその巨な物流インフラや売規模をい浮かべられるなど、社内のごく部の幹部と、直接膝を突きわせてきた取引先の首脳陣くらいのものだった。

すべての発端は、そのの、曜の昼がりに遡る。

俺は毎、盆の期になると決まって幹線に乗り、まれ育ったこの方都へ墓参りにだけ帰省していた。

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