"ローンを完済した私に、義母は「家なら売った」と言った" 第19話
夫の彦はといえば、会社に倫と私活の銭トラブルの噂が広まり、な役職からされていた。 を失い、妻の万円の仕送りを失い、無料の政婦を失った。 これからは郊の狭いワンルームで、自分の洗濯と事を自分で賄いながら、母親の扶養義務と、私への巨額の支払いを背負ってきていくのだ。
「それでは、鍵をお預かりします」
管理会社の担当者の声に、夫が震えるで本の鍵を差しした。 カチャリ、とさな属音が響いた。
にに入れ、騙され続け、そして今、完全に終わったがの終焉だった。
私は瞥も振り返らず、玄関のドアをけた。 の空気は驚くほど澄んでいて、胸いっぱいに吸い込むと、肺の奥まで洗われるようだった。
それから約。〇の初。
庭裁判所での調を経て作成された公正証に基づき、すべての銭の清算が完した。
・旧宅売却益および隠し座からの財産分与:千百万円 ・貞為および悪質な欺罔為に対する慰謝料:百万円 計、千百万円。
私の座に、約束通りの額が括で着したのを確認した、私は区役所に婚届を提した。 戸籍謄本からあの男の名が消え、私の旧姓が戻った。
千百万円。 それは旧宅の売却額を単純にで割ったようなおとぎ話の数字ではない。
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夫の隠し資産を暴き、の産を売却させ、法に基づき積みげた、血の滲むような現実の勝利の対価だった。
私はそのおを、派に使う気は毛なかった。 歳。これからできていくための老資として、堅い国債と定期預に預け入れた。 毎の暮らしは、これまで通り商のバックヤードでの事務仕事だ。 取り万円。けれど、そこから誰かに万円を巻きげられることはもうない。 万円のすべてが、私のためだけに使えるおだった。
曜の午。 私の1DKの部に、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「こんにちは、〇〇です! ご注文の蔵庫をお届けにがりました!」
ドアをけると、作業着を着たの配送員が、きない箱を抱えてっていた。
「ここにお願いします」
キッチンの、窓からのが番よく差し込む所を指差した。 作業員たちが際よく梱包を解き、設置していく。
真しい、最型のい蔵庫。 幅センチ。スリムで、表面は滑らかなフロストホワイト。 野菜が真んにあり、急速凍ができて、何より驚くほど静かな最型。
使っていた、あの黄ばんでだらけの、障りな唸り声をげていた械とは何から何まで違っていた。
「設置完しました。傷の確認をお願いします」
作業員に促され、私は蔵庫の表面にそっと触れた。 ひんやりとして、滑らかで、清潔な触。 保護用の青いビニールテープの端を指でつまみ、ピリピリとゆっくり剥がしていく。
誰の顔を伺う必もない。 「ローンの支払いが終わるまでは贅沢をするな」と鳴る男もいない。 「そんなもの買う必ない」と嘲笑う老もいない。 私の働いたおで、私が選んで、私が置きたい所に置いた、私だけの蔵庫。
作業員が帰った、私はキッチンの引きしから、古びた茶封筒を取りした。
からてきたのは、――平成の付が入った、宅ローンの『返済予定表』だった。 の端は茶く変し、毎の返済額の横に、私の几帳面なチェック印が並んでいる。 この切れに縛られ、私はもの、自分のを回しにしてきたのだ。
私はそのを広げ、もう度だけ眺めた。 しみも、悔しさも、もう湧いてこなかった。 ただ、「よく頑張ったね」と、過の自分に声をかけてあげたい気持ちだけがあった。
私は両でその返済予定表を、くしゃりと音をてて丸めた。 躊躇いなく、キッチンのゴミ箱へ放り込む。
蔵庫のドアをけると、フワリとたいが点灯した。 モーターの音は、を澄まさなければ聞こえないほど静かだった。
スーパーで買ってきたばかりの、鮮な牛乳と、みずみずしいトマトを棚に並べる。
ドアを閉めると、カチリとよい密閉音が響いた。
窓のでは、初のを浴びたの緑が、に揺れていた。 私のは、今から、ここから始まる。 もう度と、誰の犠牲にもならない。 私だけの、静かで温かいが、確かにきしていた。