"月3万で罵られる妻と、私の会社から50万貰う秘書" 第1話
「真由さん、そこ、私の席なんですけど」
個の引き戸をけた瞬、酒のグラスを持った若い女が、首をかしげて微笑んだ。
夫の真横。座の座布団。 本来なら、妻である私が座るべき所だった。
「専務のサポートをするのが私の仕事ですから。奥様はそちらの端でよろしいですよね?」
佐伯莉奈。歳。 夫が役員に昇した途端、どこからか連れてきた「個秘」だ。
仕てのいい淡いピンクのスーツに、私には到底の届かない名ブランドのネックレス。 夫・修は止めるどころか、満そうにを鳴らした。
「おい真由、突っってないでビールを注いで回れ。莉奈くんは仕事でも俺を完璧に支えてくれているんだ。今は彼女への労いも兼ねている」
「……そう」
喉の奥が、砂を噛んだように渇いた。 線を向けると、義母の富美子が莉奈の皿に刺を取り分けている。
「莉奈さんは本当に気が利くわねぇ。修も、あなたみたいな優秀なが横にいてくれていわ」
歳になる義母の、あんなに弾んだ声を聞いたのは何ぶりだろう。 私には度も向けられたことのない、甘やかで温かい声だった。
私は何も言わず、座の壁際に膝をついた。
運ばれてくる料理に、箸をつける気にはなれなかった。 目ので繰り広げられるのは、どう見ても「成功した男とその若き、そしてそれを公認する母親」
広告
の団欒だった。
「そういえば真由」 夫が元の猪を傾けながら、見すような線を投げてきた。
「お、今の費はどうなってる? 万も渡してやってるのに、先週またりないとか抜かしたらしいな」
「お米と調料がなったから。りない分は、私のパート代からしたわ」
「けない奴だ」 夫は吐き捨てるように笑った。
「根のあるにタダでまわせてもらって、たかだか分の飯すら万でやりくりできないのか? が悪すぎる。しは会社の数字の勉でもしたらどうだ。専務の妻が無能な主婦じゃ、俺の面目が潰れるんだよ」
莉奈がくすくすと品に笑い声をてた。
「専務、いじめないであげてください。奥様には奥様の世界があるんですから。スーパーのタイムセールとか、百均の節約術とか。……あ、私には理解できない世界ですけど」
義母がそれにわせて甲い笑い声をあげる。
「本当よねぇ。真由さんは昔から、おの計算みたいな難しいことはさっぱりだったものねぇ」
の嘲笑が、逃げのない個に満ちていく。 私はエプロンのない指先を、膝ので静かに握りしめた。
先週、スーパーのレジ打ちでちっぱなしになり、腰を痛めながら稼いだ万千円。 それを米キロと義母の湿布代に充てた瞬が、脳裏をよぎる。
……このたちには、何を言っても届かない。 胸の奥で、カチリと何かが音をててえ切っていくのをじた。
「失礼します」
ちがり、をげて部をた。 呼び止める声は、誰からもがらなかった。
帳で着を受け取り、たい夜の吹き抜ける通りにようとしただった。 背から、コツコツと甲いヒールの音が追いかけてきた。
「真由さん」
振り返ると、莉奈が化粧直しのポーチをにっていた。 唇の端を吊りげ、勝ち誇った瞳で私を見ろしている。
「あのね、忠告です。修さんの隣にいるべきなのは、私のように彼を真ので支えられるなんです。……たった万円の費でヒーヒー言ってるような女じゃないの」
「仕事の話なら、会社でやって」
たく背を向けようとした私の元に、彼女は信じられない言葉を滑り込ませてきた。
「私、今もエム・クリエイティブから万円、ちゃんと振り込まれてましたよ。……ごちそうさまです、名ばかりの社さん」
氷をから浴びせられたような衝撃だった。 背筋が、瞬で凍りつく。
……え? 今、この女、何て言った?
エム・クリエイティブ。 それは、。私が自分の婚貯百万円を取り崩して設し―― 半に夫から「赤字で仕事が取れないから、もう休眠続きをして畳んだ」と告げられた、あの会社の名だった。
夜過ぎ。 玄関のドアが乱暴にく音で、私は暗がりのでじろぎした。