"午前二時、ホテルから部屋を替われと言われた" 第19話
だが、私は目を逸らさなかった。顎を引き、両をに踏みしめ、男がパトカーの部座席に押し込まれ、ドアがバタンと閉まるその瞬まで、まっすぐにその線を受け止め続けた。
パトカーがサイレンを鳴らしてざかっていく。
ロビーには、苦しい沈黙と、転がったクッキーの缶だけが残されていた。
「……宮本君」
本部が、震えるで私の肩を叩いた。
「丈夫か」
「はい」
私はくをげた。
「お騒がせして、本当に申し訳ありませんでした」
「いや……よく、毅然と対応したよ。派だった」
本は息を吐きし、額の汗を拭った。
私は自分の両を見つめた。指先は氷のようにたかったが、もう震えてはいなかった。
終わったのだ。
なくとも、あの男が私の常にで踏み込んでくる悪は、ここで法な境界線によって断ち切られたのだ。
藤原健司は、そののうちに建造物侵入の容疑で逮捕された。
阪のビジネスホテル〇号の子錠の解錠ログ、防犯カメラに残された鮮な侵入の記録、そして野さんの目撃証言が決めとなった。さらに、公衆話の受話器から採取された指紋が藤原のものと致したこと、携帯話の通信履歴から私の張程を執拗に検索していた痕跡が発見されたことで、言い逃れは完全に能となった。
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京裁からは、真に対する接禁止命令に加え、私に対するストーカー規制法に基づく接等禁止命令が迅速に発令された。藤原が今、私や真の周囲数百メートルにづくこと、話やメール、第者を介した連絡を試みることの切が刑事罰の対象となった。
警察の取り調べに対し、藤原は当初「妻へのゆえのだった」と供述していたという。
しかし、なぜホテルの部で鏡をケースにしまったのかという捜査員の追及に対しては、こう呟いたそうだ。
『あいつは、私が見ているとらなければ、反省しないからだ』
その供述記録を田署の活全課の担当官から聞かされたとき、私は背筋が凍るのを覚えた。
男にとって、の恐怖や苦痛はしないのだ。するのは、自分のルールに従わせるための「調教」のプロセスだけであり、あの鏡ケースは、私の無識の領域にまで自分のを刻み込むための、酷な焼印だったのだ。
事件から週。
世田の自宅アパートに、阪のホテルからつの包が届いた。
厳に梱包された段ボール箱の伝票には、品名として『〇号 お忘れ物式』と記されていた。警察の鑑識作業がすべて終し、証拠品としての役目を終えた私の私物が、ホテル側の配によって返送されてきたのだ。
私はハサミでガムテープを切り、箱をけた。
緩衝材のプチプチに包まれて、見覚えのある化粧ポーチや、張用の充器が並んでいた。
そして、その底に。
あの、黒い革張りの鏡ケースがあった。
指紋を採取するためのアルミニウム末が綺麗に拭き取られたケースは、何事もなかったかのように黒くっていた。
私はゴム袋をはめることもなく、素でそのケースを取りげた。
のひらに乗せると、革のたい触が伝わってくる。
胃の奥が微かに疼いた。目を閉じれば、暗のでこのケースの蓋をけ、私の鏡を滑り込ませた見らぬ指の触が、のように蘇ってくる。
このトラウマは、おそらく消えないのだろう。
夜に話が鳴れば、私はこれからもび起きるだろう。ホテルのドアノブが軋む音を聞けば、臓が凍りつくだろう。見らぬ男が親切そうにを尋ねてくるだけで、全の筋肉が張るようになるかもしれない。
あの男が奪っていったのは、ホテルのの平穏だけではない。
私がこれまで疑いもせずに信じていた、「施錠された部のにいれば全だ」という、都活の基本な信頼そのものを、男は々に破壊していったのだ。
私はケースをけた。
には、私が普段使い慣れている、使い古されたの鏡が収まっていた。
私はそれを指でつまみげ、梁に掛けた。
界が、くっきりと鮮に広がった。
部の壁の微細な凹凸、窓ので揺れるの葉、机のに置かれたマグカップ。