"午前二時、ホテルから部屋を替われと言われた" 第18話
「あの女がで決断できるはずがないんだ! 誰かが恵をつけ、誰かが吹き込み、誰かが唆したに決まっている! その張本があなただ! 私はっているんだよ、宮本さん。あなたが支援センターの窓に提した類の跡も、あなたが彼女に付き添って歩いていた品川の防犯カメラの映像も、全部に入れたんだ!」
周囲がざわめいた。受付の女性社員が受話器を握りしめたまま青ざめている。
「私は真の夫だ。夫婦のにがで踏み込んで、関係を引き裂く権利が誰にある!? 所を言え! 今どこにいる! どのの、どの部にあの女を隠しているんだ!」
男がフラッパーゲートのバーを両で掴み、激しく揺さぶった。ガシャン、ガシャンと属と化プラスチックの衝突音がロビーに響き渡る。
「宮本君、がれ!」
本部が私を背に庇おうとした。警備責任者が警備棒を構え、「お客様、おやめなさい! これ以の為は威力業務妨害になります!」と鳴り声をげた。
だが、私は本の背から歩踏みし、取り乱してゲートを揺らす藤原を、徹な目で見つめ返した。
れだった。
端正なスーツを着て、丁寧な言葉を使い、どれほど自分を「理性で正当な夫」として飾りてようとしても、い通りにならない現実に直面した瞬、この男の本性はここまで浅ましく暴するのだ。
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の志を認められず、の境界線を理解できず、ただ自分の玩具を取りげられた子供のように駄々をこねているだけだった。
「藤原さん」
私は静かに言った。
「私は、真さんの現所をりません。これは事実です。支援センターも弁護士も、私に所を教えていません」
藤原が荒い息を吐きながら、血った目で私を睨みつけた。
「嘘を――」
「でもね」
私はその言葉を遮った。
「仮に私が真さんの所をっていたとしても、話番号をっていたとしても。私はあなたに、絶対に教えない。んでも教えないわ」
藤原の喉から、ヒュッという息が漏れた。
「なぜなら、真さんはあなたの所物じゃないからよ。のとして、あなたを拒絶し、あなたかられることを選んだの。……その現実を、受け入れなさい」
その瞬、のロータリーから、甲いサイレンがになってづいてきた。
赤灯の烈なが、ロビーの巨なガラス窓を真っ赤に染めげた。
自ドアがにき、田署の制警官名と、スーツ姿の刑事名が、崩を打つようにロビーへ踏み込んできた。
「警察です! くな!」
先の刑事が警察帳を掲げ、ゲートに張り付いていた藤原の腕を両側から制圧した。
藤原は瞬だけ抵抗するようにを捩ったが、すぐに両脇を固められ、へ押し付けられた。
百貨の袋が落ち、から級なクッキーの缶が転がりた。
「な、何をするんだ……! 私は親族の面会に来ただけだ! 暴れてなどいない!」
藤原は即座に仮面を被り直そうとし、通りがかりの警官たちに向かって叫んだ。
「話を聞いてくれ! 私は妻の方を探しているだけなんです! この女性が私の妻を誘拐して――」
「藤原健司だな」
の刑事が、帳をきながら平然と言い放った。
「阪府警曽根崎署より、建造物侵入事案の参考として柄確保の請がている。また、京都活全課および京裁において、配偶者暴力防止法およびストーカー規制法に基づく警告および接禁止命令の申してが本正式に受理された。……署まで同願おう」
「待ってくれ! 誤解だ、私は何も違法なことは――」
刑事が容赦なく藤原の両首にをかけ、ろに引いた。
「詳しい話はで聞く。派なコートを着てるんだ、声をすな。みっともないぞ」
引きずられるようにして正面玄関へ連されていく藤原の背を、私はゲートの内側から見つめていた。
自ドアをくぐる直、藤原が首をねじるようにして振り返った。
鏡が梁からずり落ちていた。その奥の目は、もはやのものではなかった。憎悪と、困惑と、そして決して埋まることのない虚無が渦巻く、暗い穴のような瞳だった。
男の唇が、音もなくいたように見えた。