"午前二時、ホテルから部屋を替われと言われた" 第10話
「昨夜はし、順を急ぎすぎました。ホテルの従業員の方が過剰に騒ぎててしまったようで、あなたにも余計な恐怖を与えてしまった。……でもね、理さん。私はあなたを傷つけるつもりなんて、毛ないんですよ。それだけは信じてほしい」
背で、が青ざめた顔でメモ用に何かをりきし、支配に突きしていた。『フロントへ連絡、逆探請』という殴りきが見えた。
「……何が、目ですか」
私は歯の根を鳴らしながら、辛うじて言葉を絞りした。
「警察がもういています。あなたの名も、顔写真も、すべて渡しました。今すぐ警察にしてください」
話の向こうで、藤原がさく息を漏らした。それは嘲笑ではなく、聞き分けのない子供を宥めるときの、い溜息のようだった。
「警察ですか。ええ、フロントの周りにパトカーが止まっているのは見えていますよ。あなたが階から階へ移されたのも、エレベーターホールの表示板を見ればすぐに分かりました。あのホテルのエレベーター、夜は止階のランプが側のインジケーターに全部表示される仕組みでしょう」
胃の奥がせりがり、吐き気を催した。
あの――私がエレベーターに駆け込み、野さんに「元の部に戻らないで」と叫ばれながら昇していったあの瞬、男は階のホールから、カチカチとく赤い階数表示を見げていたのだ。
広告
「理さん。私が聞きたいことは、たったつだけなんです」
藤原の調から、切のの揺らぎが消えた。械のように平坦で、それゆえに狂気を孕んだ声だった。
「真は、どこにいますか」
「……りません」
「嘘はいけません」
即座に遮られた。鳴るわけでもなく、ただたい事実を告げるような声だった。
「あなたが彼女の携帯話を解約させ、民票の閲覧制限の続きに付き添い、弁護士を紹介した。あなたが彼女の逃資をにて替えたことも、座の記録から推測がついています。あの女は、の指示がなければの配すら満にできないです。あなたがらないはずがない」
「本当に、らないのよ!」
私はたまらず叫んでいた。
「私は支援センターの窓に真さんを連れてっただけ! そののシェルターの所も、今の所も、私は切教えてもらっていません! それが支援のルールだからです! 私に連絡してきたって、何も教えられることはないの!」
話の向こうで、い沈黙が流れた。
宣のスピーカーのようないノイズが拾われた。男はの公衆話からかけている。それも、このホテルのすぐくだ。
「そうですか」
藤原は静かに呟いた。
「あなたがそうやって頑なにを閉ざすのは、彼女を守っているつもりだからですね。
……派な友だといます。ですが、理さん。夫婦の問題に、がで踏み込んで、勝に引き裂く権利がどこにあるんですか? 私は真と、ただもう度、落ち着いて話しいたいだけなんです。彼女は誤解している。誰かに吹き込まれた悪によって、正常な判断ができなくなっているだけなんです」
「あなたがやっていることは犯罪です!」
「犯罪?」
藤原が微かにを鳴らした。
「妻のを案じる夫のが、犯罪ですか。……まあいいでしょう。理さん、今の幹線は、午番ののぞみを予約されているのでしたね。関荷調会議の席者名簿の備考欄に、あなたの帰京予定刻が記されていましたから」
全の産毛が逆つ覚がした。
「京で、またお会いしましょう」
ツ、ツ、ツ、と通話が切れた。
私は受話器を取り落とした。受話器がデスクの端に当たり、い音をててへ転がり落ちた。
「宮本様!」
が駆け寄ってきた。
「阪へ……今すぐってください」
私は荒い息を吐きながら、の腕を掴んだ。
「午のチケットを……今すぐ、番い便に変えて。指定席なんて何でもいい。自由席でもいい。今すぐ、このをなきゃいけない……!」
幹線が阪駅のホームを滑りしたのは、午分だった。
指定席は満席で、私は自由席両の通側の座席にを縮めて座っていた。
窓のをぶように過ぎっていく淀川の濁った面を見ることすら恐ろしかった。