"午前二時、ホテルから部屋を替われと言われた" 第9話
午分。空は鉛のかりに侵され始めていたが、灯のたいはまだ消えていなかった。
〇号の現確認と鑑識作業が終わったあと、私は曽根崎署の捜査員からにわたる事聴取を受けた。警察官たちが運びしてくれた私の私物は、ビニール袋に包まれて号の片隅に積まれていた。洗面台にあった黒い鏡ケースだけは、指紋採取と微物の付着確認のため、鑑識課に証拠品として押収された。
元に残ったのは、予備としてポーチの底に沈んでいた使い捨てのワンデーコンタクトレンズの予備だけだった。それを無理やり乾いた球に押し込むと、界は鋭利に戻ったが、角膜が痛痒く軋んだ。
「宮本さん、阪駅までのタクシーを配いたしました」
ノックのあとに入ってきた悠斗は、夜勤けの憔悴を隠せない顔で言った。制の襟元がわずかに乱れ、ネクタイの結び目が緩んでいる。背には、顔を気にした松永支配が、提げ袋を両で抱えてっていた。には、昨夜の宿泊費の全額返分と、ホテル側が用した当面の交通費、そして京までの幹線特急券の領収が入っているという。
「荷物はすべて私どもでお運びします」支配が消え入りそうな声でをげた。
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「正面玄関にタクシーを横付けさせております。警察のパトカーも、通りをるまで方を追してくださるはずになっておりますので」
「あの男は……藤原は、まだ見つかっていないんですね」
私の問いに、は線をさまよわせた。
「隣の主駅やコンビニの防犯カメラを当たっているとのことですが……」が眉根を寄せた。「本が所持していたとされる携帯話の位置報は、昨夜の段階で源が切られており、追跡ができていないそうです」
私は返答せず、オーバーコートのボタンを番まで留めた。
このに分秒たりとも留まりたくなかった。午からの荷会議も、現の港湾倉庫の見学も、すべて同予定だった関支社の席に話でキャンセルを伝えた。理由は「急激な体調良による緊急帰京」とした。ストーカーに寝込みを襲われかけたなどと、社内のに説できる精神状態ではなかった。
ショルダーバッグを肩に掛け、部をようとしたそのだった。
ライティングデスクのの黒い話が、甲い子音をてて鳴り響いた。
ビクッと体がね、臓が肋骨の内側を激しく叩いた。
と支配が同に固まり、見かれた目で受話器を見つめた。
「……内線ですか?」私が震える声で尋ねた。
がデスクへ駆け寄り、液晶画面の表示を確認した。
その表から、血の気が気に引いていくのが分かった。
「線……代表番号からの転送です。ですが、フロントのスタッフには、号への線はすべて遮断するよう厳命してあったはずです……」
話は鳴り止まない。規則な秒隔のベルが、密閉された部の空気をナイフのように切り刻む。
「私が、ます」
が受話器にを伸ばそうとした。だが、私はそれをで制した。
逃げ回っていても、何も終わらない。
もし、この話の主があの男なら――男が何を企み、どこまで私を追い詰めるつもりなのかを、私自ので確かめなければ、京へ戻ることすらできない。
私は受話器を取り、に押し当てた。
「……はい、宮本です」
スピーカーの奥から、ガサガサとした雑音が聞こえた。波の悪い所からかけているのか、あるいは公衆話の受話器特の、くぐもった反響音。
そして、男の声がした。
「理さん」
く、穏やかで、何の刺々しさも含まれていない、極めて自然な発声だった。
にオフィスの受付で聞いた声と、寸分違わぬ温度だった。
「階のお部は、かかったですか」
肺のの空気が、度にすべて凍りついた。
声がない。喉が痙攣し、指先がくなるほど受話器を握りしめた。
男は、私が階に移されたことをっていた。
「驚かせてしまって、本当にすまないとっています」
藤原は、まるで端での肩を軽く叩いたのような、親密な調子で言葉を続けた。