"午前二時、ホテルから部屋を替われと言われた" 第8話
「藤原……健司……」
「宮本さん、この男は誰なんですか? あなたのりいですか?」
巡査部が帳を取りし、ペンを構えた。
「私の……元同僚の、夫です」
私はスマートフォンを握りしめたまま、壁にをもたせかけた。
「、同僚がこの男から逃げるのを、私が伝いました。シェルターを紹介して、弁護士の窓に繋ぎました。……でも、それだけです。私は、真が今どこにんでいるのか、本当にらないんです」
の記憶が、濁流のように脳裏に押し寄せてきた。
真は、藤原からの執拗な精神支配と監に耐えかねて、着の着の着のままで会社を辞めた。藤原は真のスマートフォンのGPSを常に監し、毎の買い物のレシートを分単位で確認し、しでも説のつかないがあると、何も正座させて「なぜ嘘をつくのか」と静かに問い詰める男だった。
真が逃げた、藤原は会社に乗り込んできた。
受付で暴れることもなく、声をすこともなく、ただ静かに「妻の体調が配なので、どなたか保護されている所を教えていただけませんか」と、何もをげ続けた。
そのとき、対応した私に向かって、藤原は微笑みながらこう言ったのだ。
『宮本さん。あなたが真を唆したことは分かっています。でも、責めたりはしませんよ。ただ、彼女はでは何も決められないなんです。
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どこにいるか、教えてくれませんか』
『りません』と私が突っぱねると、藤原は鏡のブリッジを指先で押しげながら、静かに首を傾げた。
『嘘はいけませんね。彼女のき先を、あなたがらないはずがない』
あの言葉。
あの、狂気をじさせないほど穏やかな、確信に満ちた声。
「なぜ……」私の目から、止めどなく涙が溢れしてきた。「なぜ、私がここにいることが分かったの……」
「宮本さん、張の予定は、どこかに公されていましたか?」
巡査部の問いに、私はハッとした。
今週の関荷調会議。
主催団体のウェブサイトに、週から「参加者名簿」のPDFが般公されていた。そこには、参加企業名と並んで、各社の席担当者の氏名が記されていた。『ロジスティクス 宮本理』と。
藤原は、それを見たのだ。
真が姿を消してから、男はずっと、真の方をっているはずの「協力者」である私の向を、インターネットの片隅で監し続けていたのだ。
私が阪に来ることを突き止め、利用されそうなビジネスホテルを虱潰しに探したのか、あるいは阪駅で私を見つけてをつけたのか。
そして――フロントを欺いて鍵をに入れ、私が熟している部に忍び込んだ。
荷物を盗むためではない。
私に危害を加えるためでもない。
「……あいつは」
私は震える唇を噛み締め、血が滲むのをじながら言った。
「あいつは、私が本当にでいるかどうかを、確かめに来たんです」
部のに、真が緒に隠れていないか。
あるいは、私が真と連絡を取りっている証拠が、枕元に転がっていないか。
そして、眠っている私の無防備な顔を見ろし、鏡をケースにしまうことで――「おがどこへ逃げようと、私はここまで入ってこられるのだ」と、無言の宣告を突きつけるために。
「警察官を配置します」
巡査部が無線をに取り、厳しい表で指示をし始めた。
「被害者を直ちに全な所へ隔する。ホテルの入りを封鎖し、防犯カメラの映像を洗え。被疑者は藤原健司、歳。建造物侵入およびストーカー規制法違反の疑いで配をかける」
廊が慌ただしい音と号で満たされていく。
だが、私のには、それらの音がくの聴のようにしか聞こえなかった。
男は、もうホテルにはいない。
あの満そうな笑みを浮かべて、とっくに夜ののに溶け込んでいるはずだ。
そして今も、この阪ののどこかで、あるいは私のすぐくの物で、たいスマートフォンを握りしめ、次の瞬を待っているのだ。
階の窓のは、まだい漆黒に閉ざされていた。
夜けまでは、まだ以もあった。
号の窓から見ろす曾根崎の交差点に、始発のバスが青い排気ガスを吐きしながら滑り込んでいくのが見えた。