"午前二時、ホテルから部屋を替われと言われた" 第1話
張先のビジネスホテルで眠りに落ちるとき、部のどこに何を置いたかなど、普段は気にも留めない。
ましてや、阪から御堂筋線に乗り換えてツの物流拠点まで歩き、夕方まで続いたの荷調会議で神経を擦り減らした夜なら、なおさらだった。コンビニで買ったジャスミン茶とサンドイッチを胃に流し込み、シャワーを浴びて、ベッド脇のサイドテーブルにスマートフォンを充器ごと差し込んだ点で、計の針は午零を回っていた。コンタクトレンズをし、洗面台の隅、滴のばない乾いた所に鏡を裸のまま置いて、かりを消した。
それだけのはずだった。
枕元の内線話が鳴ったのは、午分だった。
最初は、目覚ましのアラームをかけ違えたのかとった。しかし、元で響いているのはスマートフォンの子音ではなく、受話器の奥から響くく鋭いベルの音だった。体が鉛のようにく、臓だけがな速さでねがった。私はシーツを払い、暗ので探りで受話器を取った。
「……はい、宮本ですが」
微かな沈黙のあと、受話器の向こうから若い男の切迫した声が返ってきた。ホテルのフロントスタッフ特の、形式な丁寧さを保とうとしながらも、押し殺した息遣いが完全に乱れている声だった。
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「夜分遅くに変申し訳ございません。フロントのと申します。……〇号の、宮本理様でお違いないでしょうか」
「そうですが。こんなに、体何ですか」
「宮本様、変恐れ入りますが、声でお話しいただけますでしょうか」
わず眉をひそめた。
「どういうことですか」
「詳しいご説はほど必ずいたします。今すぐ、携帯話と貴品だけをに取って、お部のへていただけますでしょうか。スーツケースやきなお荷物はそのままで結構です。クローゼットをけたり、荷物をまとめたりする必はございません。ただ、の回りの最限のものだけを持って、すぐに階の号へ移してください」
の奥にこびりついていた眠気が、瞬で吹きんだ。
「事ですか? それとも設備トラブルですか」
「事故ではございません。……ただ、現、お客様の全を最優先に確認する必がじております。廊にられましたら、のお客様や通りがかりの者には切声をかけず、部番号などもにされないようお願いいたします。号の鍵はけてございます。に入られましたら、内鍵とドアガードを必ずお掛けになって、部の内線からフロントの『9』番をお呼びしください」
「ちょっと待ってください。理由も言わずに部をろなんて、納得がいきません。
何が起きているんですか」
「宮本様」
と名乗った男の声が、段くなった。受話器を元に密着させ、周囲に誰かがいるのを警戒しているような響きだった。
「お願いです。私どもも、事態をこれ以混乱させたくありません。今、お部のにいらっしゃる状態が、番全ではない能性があるのです。……急いでいただけますか」
通話が方に切れた。
ツーツーという乾いた断続音が、え切った内にさく響く。
私は受話器を置いたまま、数秒、暗のでち尽くした。
エアコンの微かな送音だけが聞こえていた。カーテンの隙から、阪神速の架をるトラックのライトが、井を細い帯になって横切っていく。
悪戯だろうか。それとも、フロントのが何かな過失を取り繕おうとしているのか。
だが、話の男の緊張は本物だった。震える指で充ケーブルからスマートフォンを引き抜き、ベッドサイドに脱ぎ捨ててあったのカーディガンをパジャマのから羽織った。財布の入ったさなショルダーバッグの紐を肩に掛ける。洗面台に戻って鏡を取ろうか瞬迷ったが、使い捨てのコンタクトレンズはしてしまったで、界は全体にくぼやけていた。部の隅にあるスーツケースは閉じたままだ。
私は音を忍ばせてドアノブにをかけ、ドアスコープを覗き込んだ。