みかん小説
本棚

"娘を押し付けた夫、九年目の誤算" 第22話

フミ叔母は目を丸くし、莉子の顔を見てから、私の方へと線を向けた。

「あらあ……ゆきさん、よくご主の実に甘えられたものねえ。自分の側の親戚の子を嫁ぎ先のに引き取らせるなんて、私だったら肩が狭くて申し訳なくて、とても頼めないわよ」

フミ叔母に悪気がないことは分かっていた。悪のない無邪気な顔で、姉である義母の言葉を百パーセント信じ込み、そのままにしているだけだった。

莉子は持っていた割り箸を止め、じっと自分の膝ののハンカチを見つめていた。

私は座敷のテーブルので、莉子のさなをそっと握りしめた。莉子の指先は、氷のようにたくなっていた。

向かいの席でビールグラスを傾けていた夫が、卑た笑みを浮かべてを挟んだ。

「まあ、ゆきがから拾ってきた子だからな。俺は広いで面倒見てやってるだけですよ」

拾ってきた子。

実の父親が、の親戚ので、自分の実の娘をそう呼んだのだ。

莉子のさなが、私ののひらのでピクッとね、ぎゅっと縮こまった。

歳の子供が、父親から発せられたその言葉のを理解できないはずがなかった。

私はく息を吸い込んだ。ここで叫びしたい衝を、奥歯が砕けるほど噛み締めて耐えた。

今ここで真実をぶちまければ、莉子はこの親戚同ので「倫の末にまれた子」

広告

として晒し者にされてしまう。私がこの、に物狂いで守ってきた防波堤が、私のな言で決壊してしまう。

言うべき所とタイミングは、私が選ぶ。

「……叔母さん」

座敷の静寂を切り裂いたのは、く、芯の通ったの声だった。

「莉子は、うちの族です。僕の事な妹です」

座敷の空気が、瞬で凍りついた。

はフミ叔母を真っ直ぐに見据えていた。その線は微も揺れていなかった。

「拾ってきたとか、面倒を見てやってるとか、そういう品な言い方は輪際やめてください。特に、莉子の目のでは絶対に」

隣に座っていた公平も、激しい調で続けた。

「俺もと同じ見だ。みっともないのは、そんなこと言ってるの方だろ」

義母が顔を真っ赤にして箸を叩きつけた。

「子供が気なを利くんじゃないの! の話にを挟むんじゃないわよ!」

「の話なら、莉子のいない所でやれよ!」

は吐き捨てるように言うと、莉子のでつかずになっていた煮物の鉢を自分の膳へと引き寄せた。

「莉子、これ俺がうからさ。お、で俺の唐揚げえよ」

「……うん」

莉子はさく頷いた。その声は微かだったが、握りしめていた指先のたさが、ほんのしだけらいだのが分かった。

夫はぐうの音もず、気まずそうに目を逸らして黙りこくっていた。

息子に正面から突きつけられた正論に対して、言い返せる言葉など持ちわせていなかったのだ。

フミ叔母は狼狽し、「まあまあ、私の聞き違いだったわね」とお茶を濁すのが精杯だった。

帰りの内、部座席に座っていた莉子が、赤信号でが止まった瞬にさく呟いた。

「お母さん……私、本当によその子なの?」

「違うわ」

私はルームミラー越しに莉子を見つめ、はっきりと答えた。

「あなたは、私のかけがえのない子供よ」

「でも……おばあちゃんが……」

「おばあちゃんは、本当の真実を何もらないの。何もらないの言う言葉は、本当のことじゃないのよ」

「……お父さんは? お父さんはってるの?」

信号が青に変わった。私はアクセルを踏み込み、を向いたまま答えた。

「お父さんは、っているわ」

「ってて……拾ってきた子だって、言ったの?」

私は答えられなかった。

喉が詰まり、涙が溢れそうになるのを必に堪えながら、ハンドルを握りしめ続けた。

自宅の駐に着いた、莉子は私の顔を見げて言った。

「お母さん、丈夫だよ。お兄ちゃんが方してくれたから、私、全然平気だから」

その背を見送りながら、私は胸を締め付けられた。

この子が「丈夫」と言葉にするたびに、あの子のので何かが壊れ、擦り減っていくのを、私は痛いほどじ取っていた。

その夜、を過ぎて私が計簿を閉じた瞬を見計らったかのように、夫が台所へとやってきた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: