"娘を押し付けた夫、九年目の誤算" 第8話
「ううん、ちゃんとしたにういいのを買うわよ。を痛めたら変じゃない」
「いいって、いので」
は蛇をキュッと閉め、静かにリビングをてった。
夫はまだ帰宅していなかった。に入ってからというもの、夫が曜の夜にで族と緒に夕飯をべたことなど、ただの度もなかった。
「お母さん、唱団の発表会、にあるんだよ」
夕飯の支度をしていると、ドリルを片付けた莉子が、カバンからつ折りにされたプリントを取りして広げて見せてくれた。
「いつもの民会館のホール。私ね、ソプラノのの列の真んにつんだよ」
プリントの部には保護者の席確認欄があり、そこにはの初旬に私が丁寧にき込んだ『瀬ゆき』という名が印刷されていた。
「もちろんくわよ。番の席を取って、しっかり聴かせてもらうわね」
「うん! ……あ、でもね、おばあちゃんは『聞きにく暇なんてない』って言ってた」
莉子はそれを、しそうにするでもなく、まるでの気の話題でもにするかのように、淡々と言った。
この子は、義母に対して過度な期待を抱かない処世術を、いつのにかこののでにつけてしまっていた。私はそんなしい処世術を、この子に覚えさせたくなどなかった。
「お父さんは……聞いてみたの?」
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私が尋ねると、莉子はプリントを丁寧に折り畳みながら、私の目を見ずにさく首を横に振った。
「ううん、聞かなくていいよ」
「どうして?」
「お母さんが来てくれれば、それでいいの」
その瞬、リビングのドアがいて公平が入ってきて、持っていたペットボトルの底で莉子のをポンと軽く突いた。
「俺もくよ。どうせそのは部活、午からだしな」
台所の奥からも、のい声が響いてきた。
「俺も試、そのは入ってないからくわ」
「……うん!」
莉子の顔に、満のひまわりのようなるい笑顔が弾けた。
、あの玄関先でおびえ切っていた歳の女の子が、いま、の兄ので屈託なく笑っている。
私がこれまで命がけで守り抜いてきたものは、この子供たちの笑顔であり、この卓の温もりだったはずだ。
その夜、子供たちが寝静まった、私はで台所の卓に計簿を広げた。
の付の横に、杉本さんからかけられた言葉、から提示された社員登用の話、そしての莉子の発表会の程を丁寧にき留めた。
夫の欄は、今夜も空のままだった。夫は過ぎに帰宅し、そそくさとシャワーを浴びて寝へと消えていた。スマートフォンはもちろん、呂へと持ち込まれていた。
――もし、社員になってに万円を稼げるようになったら。
をよぎった計算式を、私はあえて途でペンを置いて打ち消した。
まだ何も決まっていない。確定な希望を易に数字にしてしまうことは、この定なのではあまりにも危険すぎた。
ただ、つだけ確信できたことがあった。
こののに、私の本当の方がもいるということ。
、公平、そして莉子。
このを絶対に守り抜かなければならない。だからこそ、私はに任せて軽率にくわけにはいかないのだ。そうく自分に言い聞かせたのが、の夜だった。
だが、運命の歯は、翌の夜に決定な音をてて噛みってしまった。
、曜。
夫は朝に「今も倉庫の棚卸しだ。夜までかかる」と言い残し、でかけてった。
半には、莉子が唱団の練習へとかけた。同じ団に通う咲ちゃんと民会館きの線バスに乗る。往復のバス代百円も、私の財布から銭を渡した。
になると案の定、義母ががり込んできた。
「秀は今も休勤なの? あんたがもっと庭を居よくえれば、秀だって曜くらいでゆっくり休めるのにねえ」
がり框に腰掛け、私がした麦茶をすすりながら、義母はいつもの嫌を並べてた。私が何をどう改善すれば夫の仕事が減るというのか、見当もつかなかったが、私はただ「そうですね」
とだけ答えてやり過ごした。義母は分ほど言を並べた、満したようにってった。