"娘を押し付けた夫、九年目の誤算" 第3話
台所で私の元にっていた莉子は、卓のの菓子の袋からすっと線を逸らし、見ないふりをして俯いた。
さなで私のエプロンを軽く引き、蚊の鳴くような声で囁く。
「お母さん……私、おばあちゃんのではあんまりお話ししない方がいい?」
私は包丁を置き、濡れたを拭いて莉子のさな肩を抱き寄せた。
「ううん、お話ししていいのよ。莉子はね、ちゃんとこのの子なんだから」
莉子はさくこくりと頷き、洗い桶のにあった茶碗をさな布巾で丁寧に拭き始めた。
なぜ私が、義母の理尽な物言いに鳴り返しもせず、じっと黙って耐えているのか。傍から見れば議にうもいるだろう。
理由はたったつだった。
義母が吐き捨てる「あんたの親戚の子」という淡な言葉は、私にとっては決して最悪の言葉ではなかったからだ。
この世には、もっと残酷で、子供のを瞬で引き裂いてしまうような言葉がする。
その言葉を幼い莉子に向けさせないためであるならば、義母から「よその子」と蔑まれ、疎される方が、何百倍もましだった。
夫が休ににいる曜になると、義母の声は輪をかけて段ときくなった。夫は義母の隣のソファに寝転がり、テレビのバラエティ番組を眺めながらへらへらと笑っていた。
「母さん、まあそれくらいにしとけよ。
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ゆきが好きで引き取ったんだからさ」
夫はそう言って肩を揺すった。その無責任で事のような笑い方を、私はずっと見続けてきた。
夫が莉子に対して、自分からんで話しかける姿など、この度も見た記憶がない。
学から帰ってきた莉子が、玄関で「お父さん、おかえりなさい」と声をかけても、夫はスマートフォンに目を落としたまま「ああ」とく喉を鳴らすだけだった。
学から授業参観や保護者会の案内が届いても、「おがけよ、俺は仕事で忙しいんだ」の点張り。のの者面談も、公平のの入学式も、すべて私が席した。夫が学事に顔をしたことなど、片で数えるほどすらなかった。
の型連休、夫は続けてを空けた。
「会社の連と泊まりがけで釣りにく」
そう言っててったはずなのに、夫自の釣り竿は、玄関の傘ての奥に埃を被ったままてかけられていた。
の夜、のように疲れた顔で帰宅した夫のスーツの着を受け取った、がで使っている柑橘系の柔剤とはらかに異なる、パウダリーで甘い匂いが先をかすめた。
私はその着をハンガーにかけ、クローゼットの奥へと静かに掛けた。何も言わなかった。
台所の壁には、褪せた赤い折りで作られたカーネーションが本、セロハンテープで留められていた。
のの母のに、莉子が学の図のに作ってプレゼントしてくれたものだった。
拙い跡で、『お母さんへ』と鉛でかれている。
義母は毎週がにやってきてその壁のを通るたび、骨に線を逸らし、まるでそこには何もないかのような顔をして通り過ぎていた。
の最の曜、夫は朝くから支度をえてをた。
「取引先の倉庫の棚卸し応援だ。夜までかかる」
夫が休の曜にわざわざ勤するようになったのは、そのの先からだった。それまでの、そんな休勤など度もなかったはずだった。
それとを同じくして、もうつらかな変化があった。夫がスマートフォンを、入浴にも浴へ持ち込むようになったのだ。
以であれば、脱所のプラスチック製の脱かごのに無造作に放り込まれていたものが、を過ぎた頃から、浴内のシャンプー棚のに置かれるようになった。
リビングの卓のに置くも、必ず液晶画面をにして伏せて置く。以はそんな神経質な癖など切なかった。
私はその変化のすべてに気づいていた。
気づいていながら、度も問い詰めることはしなかった。
聞いたところで、夫が正直に真実を状するとは到底えなかったし、何より、決定な事実を突きつけられたで、自分自がどうすべきなのか、まだ覚悟が定まっていなかったからだ。