"娘を押し付けた夫、九年目の誤算" 第1話
「は、娘も連れててけよ」
、曜の午。湿り気を帯びたぬるいが網戸を揺らす暗いリビングで、卓の向かいに腰をろしていた夫の秀が、吐き捨てるように嘲笑交じりの声を張りげた。
その直、私が卓のに両を揃え、静かに告げた言葉はこうだった。
「もう限界です。婚しましょう。と公平の息子は、私が連れてきます」
連れ添った夫から返ってきた言葉が、冒のそれだった。
秀のすぐ隣に座り、運ばれてきたばかりの湯呑みからちる湯気を眺めていた義母の節子が、湯呑みの台をことりとテーブルに置き、勝ち誇ったようなややかな差しで私を射抜いた。
「そうよ。娘までこっちに押し付けるんじゃないわよ」
だった。
毎朝の事の支度も、保育園や学の送り迎えも、砂埃のう庭での運会も、私が母親として誰よりもくで見守ってきた。夜に突然度いをした夜は、寝着のにカーディガンを羽織り、さな体を抱きかかえて暗のを救急病院へと必にった。
それだけの歳をねてきたというのに、その子のことを夫は邪魔な荷物を払い落とすかのように言い放ち、義母は最初から関係のないよその子であるかのように切り捨てた。
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私は膝のにしっかりと乗せた茶封筒のに両をねたまま、の顔を順番に見つめた。乾いた喉から、静かな声が零れ落ちる。
「……無理だって、あの子は」
その瞬、秀の元から笑いがすっと消え失せ、気の顔がみるみるうちに張っていった。
隣の義母は、まだ何つ察していない様子で、訝しげに細い眉をひそめている。
私が最までにしなかった言葉の続きがある。
、まだおむつもれていなかった歳の女の子が、体誰の血を引いてこのに連れてこられたのか。義母は何もらない。の息子たちもらない。私はこの、夫以の誰にもその真実をかすことなく、胸の奥くにしまい込み、ただひたすらに耐え続けてきた。
けれど、のこの。私はそのすぎたに、自らので終わりを告げることを決めていた。
私の名は瀬ゆき。歳。
駅にある規模スーパーの惣菜部で、週に、パートタイマーとして働いている。シフトは曜、曜、曜、曜の固定で、曜とは公休としてにいる。朝から夕方までの番に入り、パチパチと油がねるフライヤーので、ひたすら唐揚げやトンカツを揚げ続けるがい。
夫の秀は歳。堅の事務器販売会社で営業課を務めている。
結婚して今でを迎えた。
子供はまれたことになっている。
男のは歳で、元の公の。豪のサッカー部で汗を流している。次男の公平は歳で、。兄と同じでバスケットボール部に所属している。そして末っ子の娘、莉子は歳で、学。毎週曜の午には、の女唱団へ通っている。
それから、夫の母である節子。今で歳になり、がから徒歩分ほどの距にある軒で暮らしをしている。義父はに病気で界した。義母は曜の夕方と曜の午に、まるで巡回警備でもするかのように決まってがへと顔をしていた。
私自の両親は、私が歳を迎えるに相次いで病気でくなっていた。っ子だったため兄弟はおらず、親戚付きいもほとんど途絶えている。私には、ろ盾と呼べるような実も血縁もどこにもしなかった。
歯が音をてて狂い始めたのは、そののの終わり頃のことだった。
もともと夫は、庭の仕事には切指本触れないだった。
私の朝は毎朝に始まる。台所にち、育ち盛りの男の子のために巨な弁当箱をつ埋める。の分はの男子が満するだけのぎっしりとした米とおかずを詰め、公平の分は朝練があるため半には持たせなければならない。