"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第25話
父の瞳に、じわりと涙が滲んだ。
「咲。……京で、よく頑張ってきたな」
その言が、私の胸の奥に、すとんと落ちた。
。 満員に揺られ、理尽に耐え、孤独な夜を幾千回も越えてきた私のが。 逃げしたろめたさと、自の誇りの狭で、誰にも言えずに抱え込み続けてきた私の痛みが。 この言で、すべて報われたような気がした。
界が、急激に滲んだ。 私は奥歯を噛み締め、涙がこぼれ落ちるのを必に堪えながら、さく頷いた。
「……うん。頑張ってきたよ」
「そうか」 父はく笑い、私の肩をポンと度だけ叩いた。 のついた、温かくていだった。
「幹線のだろう。もうけ。邪引くぞ」
「お父さんもね。無理しないでよ」
私は踵を返し、坂をり始めた。 数歩歩いて、度だけ振り返る。
父はすでに脚に戻り、の青空に向かってく枝を伸ばすリンゴのを見げていた。 その背は、さく丸まっていたけれど、もう度と崖っぷちでち往する男の背ではなかった。
***
青森駅から乗り込んだ幹線は、静かに滑りし、速度をげていった。
窓の景が、づいた々から、のコンクリートの防音壁へと移り変わっていく。 座席のテーブルを倒し、駅の売で買った缶コーヒーをけた。 プしゅっ、というさな音が、静かな内に響く。
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バッグのから、祖父の真鍮の鍵を取りした。 役目を終えた、角の丸くなった古い鍵。 松永先は「記に持っていなさい」と言って、私に返してくれた。
のひらので転がすと、属のたさがよく皮膚を刺激する。
私は、このを継がなかった。 これからも、京の慌ただしい常ので、クライアントの無理難題にをげ、満員に揺られながらきていくだろう。 私はあのへは戻らない。
けれど。 私のには、確かに祖父の血が流れている。 どんなり坂でスピードがても、どれだけ周りがパニックになってアクセルを踏み込もうとしても。 遅れになるに、嫌がられてもグッと体をかけて、ペダルを踏み抜くことのできる――あの、たくていブレーキが。
窓のには、夕暮れに染まる関平野のビル群が見え始めていた。 無数の赤い航空障害灯が、夜の帳ので点滅している。
私が帰るべき、私の戦だ。
私は真鍮の鍵をバッグの奥く、お守りのように切にしまい込み、く息を吐きした。 幹線が、減速を告げるアナウンスを鳴らし始める。
私のは、もう度と、震えることはなかった。