"母を遠ざける姉の嘘" 第21話
「千佳……気をつけてね。京のお仕事、無理しちゃダメだよ」
「うん。お母さんも、デイサービスの見学、ちゃんと佐伯さんと緒にってみてね」
母はしだけ照れくさそうに、しかし確かに頷いた。
美咲の運転する軽自に乗り込み、田駅へと向かう。 内には、静かなラジオの音だけが流れていた。 ぶりの、姉ときりの空。 気まずさはあったけれど、あの刺すような緊張は、もうどこにもなかった。
駅のロータリーにが止まった。
「……じゃあね、千佳」 美咲はハンドルを握ったまま、を向いて言った。
「うん。……お姉ちゃん、無理しないでね。曜と曜は、ちゃんとアパートで休むのよ」
「……わかってるわよ。指図しないで」 美咲は素っ気なく返したが、私がドアをけてりようとした、さく、背に声をかけてきた。
「千佳」
振り返ると、美咲がしだけ窓をけて、こちらを見ていた。
「……お菓子、美しかったわよ。蘇のやつ」
それだけ言うと、美咲はすぐにアクセルを踏み、をロータリーのへとらせていった。 ざかる軽自のテールランプを見送りながら、私はさく息を吐いた。 たいの空気が、肺の奥をよく洗っていくようだった。
幹線の窓側席に座り、京へと向かう。 浅の頂にかかるいが、夕に照らされて茜に輝いていた。
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座席の背もたれにく体を預けた瞬、全からドッとい疲労が押し寄せてきた。 けれど、その疲労は決して嫌なものではなかった。 、私のを縛り続けていた、あの鉛のような罪悪は、跡形もなく消えっていた。
*
それから、ヶが過ぎた。
の終わり。京のは、くもクリスマスのイルミネーションで彩られ始めていた。
曜の夜半。 私は会社のデスクで最の請求の発処理を終え、パソコンの源を落とした。 残業を終えてオフィスをると、え切った夜が頬を撫でる。 コートの襟をて、駅へと向かうの波に紛れる。
以なら、こんな曜の夜、で帰宅するすがら、決まって胸の奥が痛んでいた。 「今頃、野の母はどうしているだろう」 「美咲は、で母の世話に追われているんじゃないだろうか」 そんないが、美しいものをべる気力も、買い物を楽しむ気分も、すべて奪いっていたのだ。
けれど、今は違う。
ポケットので、スマートフォンがく震えた。
ち止まり、画面を見る。 LINEの通だった。 送り主は、姉の美咲ではない。
『登美子』――母のアカウントからだった。
トーク画面をくと、枚の写真が送信されていた。
ピントがしボケていて、指先が画面の端に写り込んでいる、器用な写真。
実の裏庭にある、あの柿のので、竿に吊るされた何個もの干し柿が、野の澄んだの青空ので、飴に輝いていた。
その写真のに、慣れないつきで打たれたであろう、いメッセージが添えられていた。
『ちかへ。 みさきは きょうから まちの いけばなきょうしつに いきました。 かきが あまくなりました。 らいげつ まっています』
句読点も改もし恰好な、たったの文章。
けれど、それは誰の検閲も受けていない、誰の嘘も混ざっていない、母自の言葉だった。
「……ふふ」
わず、元からさな笑みがこぼれた。 目尻がしだけくなったけれど、それはもう、痛みの涙ではなかった。
私は画面をタップし、返信を打ち込んだ。
『写真ありがとう。すごく美しそうだね。 来の幹線取ったから、お昼頃に着くよ。 お姉ちゃんにも、お産のリクエスト聞いておいてね』
送信ボタンを押す。 すぐに『既読』のマークがついた。
スマートフォンをコートのポケットにしまい、私は再び歩きした。
駅の雑踏の向こうに、京のい夜空が広がっている。 たく澄んだ空気を、胸いっぱいにく吸い込む。
私の歳のが、今、確かな自分の音とともに、しく始まろうとしていた。