"完璧な夫に給料を突き返した朝" 第19話
だが、目にしてようやく、この男は自分ののハンドルを、自分ので握る覚悟を決めたのだ。
*
半が経った。
の爽やかなが、のを黄に染めげる季節。 曜の午、私は駅の商業ビルのにある、さな個別指導塾の面談にいた。
「健太君、このの志望判定模試、見事A判定でしたよ。期特訓の成果が、しっかり基礎力として定着していますね」
担当の講師が、笑顔で成績表を差ししてくれた。 そこには、健太が毎夜遅くまで机にかじりつき、ボロボロになるまで解き直した問題集の成果が、はっきりとした数字となって刻まれていた。
「ありがとうございます。先のおかげです」
面談を終え、ビルのにると、したいが頬を撫でた。
スマートフォンの画面を見る。 メッセージアプリをくと、亮介から写真が届いていた。
【スーパーのタイムセールで、豚肉の細切れがグラム78円だったから3パック買った。今夜はこれとキャベツで回鍋肉にするよ。健太の夜に、おにぎりも作っておいた】
添付されていた写真には、使い古されたフライパンの横に、格好だが苔が丁寧に巻かれたつのおにぎりが写っていた。
亮介のだったヴェルファイアは、宣言通りに売却された。 今は、私のパート代と亮介のわずかな貯をして買った、の軽自ががの駐に止まっている。
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ゴルフバッグが消えた亮介のクローゼットには、スーパーの特売チラシと、彼自が毎几帳面にレシートを貼り付けている学ノートの計簿が並んでいる。
先、義母から「親戚の法事で、しお布施をめに包みたいから援助してほしい」と話があった、亮介はリビングで震えるで受話器を握りしめながら、こう言った。
『母さん、うちは今、健太の受験で杯なんだ。円もせない。文句があるなら、俺に言ってくれ。朋美は関係ない』
話を切った、亮介は胃を押さえてトイレに駆け込み、しばらく吐き気に苦しんでいた。 を拒絶し、失望されることの恐怖。 そのたい痛みを、彼は今、をもってつひとつ学んでいる最だ。
私は駅の通りを歩き、ヶに訪れたあのブランド買取のでを止めた。 自ドアをくぐり、ガラスカウンターのにつ。
「いらっしゃいませ」
ヶと同じ員が、丁寧にをげた。
私はバッグから、茶の封筒を取りした。 には、私がこの半、平の昼にスーパーのレジ打ちのパートで必に働いて貯めた、万円の現。
「あの……に、こちらで預かっていただいた、プラチナのブレスレットを買い戻したいのですが」
伝票の控えを差しすと、員は確認のために奥の庫へと向かった。
数分、トレイに乗せられて運ばれてきたのは、さなベルベットのケース。
パチンと蓋をけると、あのさな粒のダイヤが、の柔らかなを浴びて、静かに、だが力く瞬いた。 母が、学を卒業した私に贈ってくれた、私の誇りの結晶。
代を支払い、ケースを受け取る。 指先で触れたプラチナのたさが、じわりと私の体温に馴染んでいくのがわかった。
をて、駅へと続く遊歩のベンチに腰掛けた。 私はブレスレットを首に巻き、留めをカチリと留めた。
首に伝わる、確かなみ。 もう、夫にあげたピンクゴールドのリングはない。 あれは、買い戻さなかった。 あのリングに刻まれていたの嘘と見栄は、もう私のには必のないものだったから。
バッグから、しく作った自分名義の通帳を取りす。 表をくと、そこには私のパート代から、毎しずつ積みててきた「私だけのお」が印字されていた。
【現残 ¥184,200】
誰の顔を窺う必もない。 誰の借を埋めるためのものでもない。 私が、私のでっている証。
カバンを抱え直し、ちがる。 向かいのブティックのショーウィンドウに、自分が映った。
着古した伸びきったカーディガンは、もう着ていない。 先週、自分のパート代で買った、仕ての良い、温かいキャメルの物のハーフコート。
鏡のの私は、のどの写真よりも、背筋がすっきりと伸びていた。
「お母さん!」
通りの向こうから、きな塾のカバンを背負った健太が、を振りながらってきた。 その笑顔には、もうの顔を窺うような怯えはどこにもなかった。
「お帰り、健太。模試、A判定だったわよ」
「本当!? やった! お父さんにLINEしなきゃ!」
健太が嬉しそうにスマートフォンを取りし、弾むような取りで私の隣に並ぶ。
「今夜、お父さんが回鍋肉作って待ってるって」
「えー、お父さんの回鍋肉、ちょっと濃いんだよな〜」
「ふふ、じゃあ、帰ったらでダメししてあげましょう」
夕暮れのを、私たちは並んで歩きした。
の空が、燃えるような茜に染まっている。 これから先、この族がどうなるのかは、まだ誰にもわからない。 、健太がになった、私が亮介の隣にいるのか、それとも別のを歩んでいるのかも、まだ決めてはいない。
けれど、もう度と、あの息の詰まる暗に戻ることはない。
私はもう、誰の盾にもならない。 誰の嘘も、背負わない。 自分ののみは、自分で選び、自分で抱えて歩いていくのだから。
首のさなダイヤが、夕暮れのを浴びて、どこまでも誇らしげに輝いていた。