"優しい教室で震える息子" 第21話
みんながくれるカレーも、シチューも、がしなくて、すごく苦しかった」
徒たちのくが、俯いて肩を震わせていた。 自分たちが誇らしげに貼り付けた、黒板のピンクのハートの葉っぱが、今やどれほど蓮を傷つけていたのかを、子どもたちは自らの痛みとして受け止めていた。
「だから、もうやめてください。曜からは、お母さんからもらった袋を持って、自分で払ってべます。僕は、みんなに助けてもらうためのマスコットじゃない。僕は、みんなと同じ、ただの野蓮です」
蓮はマイクを教卓に置き、クラスメイト全員に向けて、く、くをげた。
それは、れみを乞う座ではない。 の対等なとして、自分の尊厳を取り戻すための、誇りい礼だった。
教の誰も、声を発することができなかった。 ただ、初の爽やかなが、け放たれた窓から吹き込んできて、黒板のピンクの画用をパタパタと虚しく揺らしていた。
そのの展は、の世界の現実な続きとして淡々と、けれど容赦なくんだ。
教育委員会への研究指定の申請は、そのの夕方に学側から正式に取りげられた。 武田先は担任をされ、学主任のベテラン女性教師が代としてクラスに入ることになった。 PTAの役員会も緊急招集され、浅井織は学委員を辞任した。
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あの、教卓に置かれた通の封筒は、、学を通じて各庭に正式に返還された。 島さんからは、丁寧なお礼のメッセージと、静ちゃんが選んだというさなクッキーの詰めわせががに届いた。
奇跡の美談など、最初からどこにもなかったのだ。 そこにあったのは、の見栄と、同調圧力と、それによって窒息しかけた子どもたちの歪んだ関係だけだった。
季節は巡り、の半ば。 梅のれの、い陽射しがグラウンドを焦がす午だった。
私は回りの仕事の、しだけ回りをして、緑が丘学のグラウンドが見えるフェンス沿いの歩にち止まった。
グラウンドでは、組の体育の授業がわれていた。 赤を被った男子徒たちが、砂埃を巻きげながらサッカーボールを追っている。
「蓮! パス! こっちせよ!」
きな声が響いた。 ボールをキープしてドリブルしていた蓮が、鋭くを振り抜く。 パスはわずかにズレて、相チームのディフェンダーにカットされた。
「あー、クソッ! 蓮、パスが甘いんだよ!」 鳴り声をげたのは、浅井悠君だった。
「うるさいな! 悠のがるタイミングが遅かったんだろ!」 蓮が即座に言い返す。
「はあ!? 俺はずっとからフリーだったじゃんか!」 「だったらもっと声せよ!」
は額がぶつかりそうなほどの距で睨みい、だらけの体操の胸ぐらを掴みわんばかりに激しく言い争っていた。 周りの男子が「まあまあ」「試続けろよ」と苦笑いしながら割って入る。
武田先の任の女性教師が、ピッピーッと鋭く笛を鳴らした。 「はいそこ! 喧嘩しない! ボールに集しなさい!」
蓮はふんっとを鳴らして悠君から背を向け、のついたで額の汗を乱暴に拭った。 その顔には、かつて私を恐怖させたあの怯えも、のような青さも微もなかった。 陽に焼けた頬を真っ赤にし、息を切らし、い通りにいかない試に苛ちをわにしている。
――誰からも、特別扱いされていない。 壊れ物のように腫れ物に触られることもなく、ミスをすれば鳴られ、理尽に文句を言われ、そして言いたいことを全力で言い返す。
そこにあるのは、無菌の美談などではない。 と、汗と、摩擦にまみれた、あまりにも々しく、ありふれた歳の常だった。
試が再されると、蓮は再び砂埃のにび込んでいった。 誰かのが引っかかり、蓮が派にグラウンドに転がる。 膝を擦りむいたようだったが、蓮は痛そうに顔をしかめながらも、誰の助けも借りずに自分の力でスッとちがり、再びボールを追いかけてりした。
フェンスので、私はゆっくりと息を吐きした。 初のを帯びたが、私の頬を優しく撫でていく。
守るべきものは、守り切った。 息子から奪われかけた「普通のでいる権利」を、私たちはあの、確かに取り戻したのだ。
くで、ゴールのネットが揺れ、男の子たちの歓声がグラウンドに霊した。 その騒がしい狂ので、だらけの蓮が、誰よりも無防備な笑顔で仲たちとハイタッチを交わしていた。