"古希の夜、二人の嫁は手を引いた" 第11話
「だからって、おばあちゃんがお母さんのを勝に良太おじさんに譲っていい理由にはならないよ」
私は顔をげた。
娘の瞳には、湿っぽい傷など微もなかった。
そこにあったのは、今の若い世代特の、恐ろしいほど静で乾いた現実覚だった。
「おばあちゃんが辛かったのも本当。たくさん事をしてくれたのも本当。でも、お母さんが自分のおでこのを買って、ずっと守ってきたのも本当でしょ? 過の苦労を理由にしての権利を奪うのは、ただの甘えだし、普通に棒だよ」
「……音」
「お母さん、変に同して自分を責めたりしないでね。私はお母さんがで全部背負い込んで、物分かりのいい顔をするのが番嫌だから」
娘のその言が、私の胸の奥に燻っていたを、綺麗に吹きばしてくれた。
そうだ。
あのの過の涙や孤独は、確かに本物だったのだろう。
を寄せた男ので、の名義の根ので暮らす惨めさに耐えかねていたのも事実なのだ。
けれど、だからと言って、のを自分の都できしていい免罪符にはならない。
過の謝と、現の境界線。
そのつは、決して混同してはならないのだ。
その夜、階からりてきた夫の俊を、私はダイニングテーブルのに座らせた。
夫の目のには、のノートと本のボールペン。
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「……何だよ、これ」
夫は腫れぼったい目でノートを見ろし、怯えたようにを引いた。
「期限は週よ」
私は腕を組み、ったまま夫を見ろした。
「あなたが区役所の齢福祉課と域包括支援センターへって、お義母さんの状況をすべて調べてきなさい。の受額、利用できる介護保険のサービス、そしてこの辺にある齢者向けの賃貸物件のリスト」
「お、俺が……? でも俺、平は仕事が……」
「を取りなさい」
私のい声に、夫の言葉が喉で詰まった。
「織さんは、仕事を休んでお義母さんの通院に付き添わされていたのよ。私は、仕事のを縫ってすべての続きを代してきた。自分の母親の老よ。息子であるあなたがかないで、誰がくの?」
「千里、でも……」
「週以内に現実な収支計画と居の候補を持ってこないなら、私は弁護士を通じてお義母さんに対する退通告を内容証で送ります。そしてあなたとも、正式に別居の続きに入ります」
「べっきょ……っ!?」
夫の顔から、完全に血の気が引いた。
「脅しじゃないわ。自分の母親のから逃げ続け、妻の財産を盾にして保を図るようなと、これ以同じ根ので暮らすつもりはありません」
夫は震えるでボールペンを握りしめ、そのままテーブルのに突っ伏した。
翌週から、夫の活は変した。
朝くをて、休を使って役所の窓を回り、昼休みには産へ話をかけ、夜は帳に数字をき殴る。
これまで私が「当たりの常」としてこなしてきた名もなき調の嵐に、を過ぎた男が初めて正面から放り込まれたのだ。
曜の夜。
リビングのドアがき、疲れ果てた夫が戻ってきた。
ネクタイは曲がり、目のには濃い隈が張り付いている。
テーブルのに、どさりと置かれた茶封筒。
からてきたのは、付箋が無数に貼られた役所のパンフレットと、きの収支シミュレーションだった。
「……調べてきた」
夫は枯れた声で呟き、子に倒れ込んだ。
「母さんの国民、額万千円ちょっとだった。……貯も、親父の医療費でほとんど使い果たしてて、百万くらいしかない」
「そう」
「駅の側に、齢者の入居を相談できる1Kのアパートがあった。賃は管理費込みで万千円。敷と礼で約万円。引越し費用が万円……」
夫は震える指先で、ノートにかれた数字をなぞった。
「母さんのだけじゃ、賃を払ったら活費が残らない。費と費、医療費を考えたら、毎最でも万円はする……」
「その万円は、どうするの?」
「……俺と良太で、毎万千円ずつしうしかない。良太にも話して、無理矢理にでも承諾させた。
『せないなら母親の引き取り先を自分で探せ』って言ったら、あいつ、渋々頷いたよ」