"古希の夜、二人の嫁は手を引いた" 第7話
「……いいわ」
義母は絞りすように呟いた。 その声は、憎悪でく濁っていた。
「そこまで私を邪険にするなら、結構よ! 私がていけばいいんでしょう! 男の嫁に追いされたれな寄りとして、所に言い触らしてやるわ!」
義母は踵を返し、階の自へと乱暴に駆け込んだ。 から、引きしを引く激しい音や、スーツケースの具が擦れう音が響いてくる。
夫がおずおずと私の元へ寄ってきた。
「千里……いくらなんでも、あんな言い方……。母さん、本当に荷物をまとめてるぞ。どこへかせる気なんだよ」
「き先を決めるのは、あの自よ」
「でも、の寄りが急にてったら、世体が……」
「世体?」
私はややかに夫を見げた。
「まだそんな寝言を言ってるの? あなたが止めたければ、あの荷物を持って緒にてけばいいわ。度とこの敷居を跨がない覚悟があるならね」
夫は喉を詰まらせ、それ以言も発することができなくなった。
分。 エンジのさなキャリーケースを引いた義母が、廊をに通り過ぎた。 コートの襟をて、度も私たちの方を振り返ろうとしない。
玄関のドアが、叩きつけられるような轟音をてて閉まった。
ガチャン、と鍵の落ちる音が、静まり返ったのに虚しく響き渡った。
義母が転がり込んだ先は、予通り、次男の良太が暮らす2LDKの賃貸アパートだった。
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その部始終は、織から送られてくる簡潔なメッセージによって、リアルタイムで私の元に届いていた。
『お義母さんが突然、スーツケースを持って良太の部に押し掛けてきたそうです』
織からのLINEには、呆れ果てたが滲んでいた。
『私と子供たちが実へ避難しているのをいいことに、「嫁がてったなら私が面倒を見てあげる」と乗り込んできたみたいです。良太からパニック状態で話がかかってきました』
私はめたコーヒーをに含みながら、画面を見つめた。
良太の部の惨状は、像に難くない。 織が子供を連れててってから週。 事の切を妻に丸投げしてきた歳の男が、まともに暮らせているはずがなかった。
脱ぎ捨てられた洗濯物の。 シンクに放置され、異臭を放つカップ麺の容器とコンビニ弁当のガラ。 掃除すら度もかけられていない埃まみれのフローリング。
そこに、膝の痛みを抱え、「男ので事に守られてきた」とい込んでいる歳の老がを踏み入れたのだ。
獄の幕けだった。
義母がをて目の夜。 リビングで、持ち帰った仕事の類に目を通していると、夫のスマートフォンがけたたましく鳴り響いた。
画面にる「良太」の文字。 夫は怯えたように私を瞥し、震える指で通話ボタンを押した。
「……もしもし、良太?」
『兄貴! 頼むから今すぐ母さんを連れて帰ってくれよ!』
スピーカーから漏れた弟の鳴は、今にも泣きしそうだった。
『もう限界なんだよ! 朝から晩まで飯がいだの、部が汚いだの文句ばっかり! 俺だって仕事で疲れて帰ってきてるのに、呂の湯加減が違うって泣き叫ばれて……俺にどうしろって言うんだよ!』
夫は困惑したように眉をの字にした。
「そう言われてもな……母さんが自分からそっちへったんだろ? おがしは面倒を見てやれば……」
『無理に決まってんだろ! 俺は男だぞ!? なんで俺が洗濯物畳んで、母さんの湿布貼らなきゃいけないんだよ! 織がいれば全部やらせたけど、あいつ実から戻ってこないし!』
「良太、お、織さんとは……」
『あいつもがおかしいんだよ! さっき「母さんが泊まってるから伝いに来い」ってLINEしたら、着信拒否されやがった! 兄貴、母さんをそっちに戻してくれ! 千里姉さんなら慣れてるだろ!?』
私は夫のからスマートフォンを静かに取りげた。
「もしもし、良太さん」
受話器の向こうの息遣いが、ピタリと止まった。
『え……ち、千里姉さん……?』
「お義母さんを引き取ると決めたのは、あなた方親子の問題です。私のは、あなた方の都で老親を押し付けうゴミ捨てではありません」
『で、でも、母さんは兄貴のでも……』
「の無償の奉仕は、昨をもって完全に終しました。