"古希の夜、二人の嫁は手を引いた" 第5話
午を回った頃、私は静まり返った自宅の玄関をけた。
のは異様なほどえ切っていた。 靴を脱ぎ、廊を歩いてリビングの引き戸をける。
照をつけようとした私の指が、ふと止まった。
ダイニングテーブルのに、枚のいが、まるで図に誇示するように置かれていたのだ。 部に青いインクで印刷された、見慣れないロゴマーク。
私は息を潜め、そのにづいた。
『株式会社タカハシ務 現調査および寸法計測のご案内』
臓が、ドクンと嫌な音をてた。
類の付に目をらせる。 そこには、赤ボールペンで力く囲まれた数字があった。
【実施予定: 午900分】
【依頼主:黒田正子】
【事内容:1階およびダイニングの取り変更、若夫婦同居に伴うバリアフリー改修事調査】
喉の奥から、乾いた笑いが込みげてきた。
古希の席でのあの宣言は、いつきなどではなかった。 義母はすでに務を配し、私の留守を狙って、私のを次男仕様に作り変える続きを勝にめていたのだ。
の朝、。 あとには、見らぬ業者が私のにメジャーを持ってがり込んでくる。
私は元の類を指先でく折り曲げ、暗ので静かにスマートフォンの通話履歴をいた。
計の針は、午半を指していた。
広告
に沈んだリビングで、え切ったスマートフォンを握りしめる。 画面の青いが、指先の刻みな震えを照らししていた。
りではない。 、このの敷居を跨ぐたびにの奥底へ押し込んできた違が、たい刃となって背筋を突き刺していた。
古希の席での、あの誇らしげな笑顔。 親戚の無責任な拍。 そして、テーブルのに平然と残された、務の現調査票。
すべてが本の線で繋がっていた。 義母は突発にいついてを滑らせたのではない。 私のを狙い、業者のを招き入れ、堀を埋めて既成事実を作る。 そこまで計算し尽くしたで、あの宴席を仕組んでいたのだ。
「……ふざけないで」
乾いた声が、静まり返った部に落ちた。
私は度く息を吸い込み、呼吸をえた。 に任せて喚き散らす段階は、もう終わっている。 相が制度と世体を盾にして奪いに来るのなら、こちらも法と続きという名のメスで、寸分の狂いもなく急所を抉りすだけだ。
寝へは戻らなかった。 斎の庫をけ、枚の茶い封筒を取りす。 法務局の印が鮮な『登記事項証』。 そして、経劣化で角が黄ばんだ枚の『無償使用貸借確認』。 、義父母をこのに迎え入れたと、、義父が界した翌に、義母自の跡で署名捺印させた面だ。
テーブルのに類を揃え、朝を待った。
午分。 務の営業始を告げる報と同に、受話器をに当てた。
コール音が回鳴り、男性の事務な声が響く。
『はい、株式会社タカハシ務です』
「お忙しいところ恐れ入ります。本午に、黒田正子名義で現調査の予約が入っている件でお話いたしました」
『あ、はい! 黒田様ですね。担当の者がちょうど発の準備を――』
「その調査を、今すぐキャンセルしてください」
話の向こうで、をめくる音がピタリと止まった。
『……え? キャンセル、ですか? しかし、お母様から昨、ぜひ今に採寸を済ませてほしいといご望をいただきまして……』
「私はそのの所者、黒田千里です」
氷を滑らせるような声で、淡々と事実を告げる。
「発注者である黒田正子は、その産の所権を切持っていません。登記の所者は私単独であり、取り変更はおろか、見積もりのためのち入りすら切許していません」
『えっ……し、しかし、ご族のご相談だと……』
「本の許諾のない改修計画に、貴社が関与されるおつもりなら止めません。ただし、本敷内に歩でもち入られた、居侵入として直ちに警察へ通報します。事契約を結ばれたも、無権利者との無効な契約として法続きを取ります。
それでも来られますか?」
受話器の向こうから、息を呑む音がはっきりと聞こえた。