"百万円を積まれても、他人に戻る" 第14話
玄関のには、静寂だけが残された。
私はエプロンのポケットからスマートフォンを取りし、録音を止した。 保された音声ファイルには、義母の選別発言と、夫の絶叫が、完璧な音質で記録されていた。
引き戸の向こうから、々しくドアを叩く音がした。
コン、コン。
「……美咲」
夫の声だった。 掠れ、涙に濡れた、れな声。
「母さんは、帰ったよ……。俺、本当に……本当に違ってた……。頼む、美咲、もう度だけやり直すチャンスをくれないか……」
私は引き戸にを触れることすらしないまま、板越しに静かに告げた。
「あなたが母親に鳴り返したこと、葵と結のためにったことは、父親として当たりのよ」
「美咲……!」
「でもね、弘さん」
私の声には、片の揺らぎもなかった。
「それはに、葵がまれたそのに、あなたがするべきことだったのよ」
ドアの向こうで、息を呑む気配がした。
「遅すぎるの。あなたがどれだけ反省しても、私が病でで泣いた夜も、葵が傷つけられたも、元には戻らない。変わったのはあなたの勝。でも、変わったからといって、私があなたを許さなきゃいけない理由にはならないわ」
「美咲……頼むよ……子供たちの父親でいさせてくれ……!」
「父親としての責任は、養育費と法な義務で果たしなさい。夫としてのあなたの居所は、私ののどこにも残っていないわ」
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それ以、私は言葉を発しなかった。
廊の向こうから、葵がそっと顔を覗かせていた。 そうに揺れる瞳。 私はしゃがみ込み、両を広げた。
葵が駆け寄ってきて、私の胸のにび込んでくる。 そのさな温もりを抱きしめながら、私はく、くに誓った。
もう、誰もこの子たちを傷つけさせない。 理尽な呪いは、私の代で完全に断ち切る。
それからヶが過ぎた。
季節は完全にへと移り変わり、のたいがを吹き抜けていた。 夫は田弁護士を通じて、正式な婚協議のテーブルに着くことを承諾した。 私の元にある数々の証拠――診断、録音データ、婚姻費用の払い記録――のに、夫側の弁護士も切の争いを諦め、こちらの提示した条件(完全な親権の取得、算定表の限に基づく養育費の支払い、公正証の作成)を全面に受け入れる向を示していた。
義母はあれ以来、度も姿を見せなくなった。 親戚から『男孫欲しさに嫁と孫を追いし、息子にまで縁を切られた恥ずかしい老婆』としてい目で見られ、本に引きこもっているという。
すべてが、法と正義のもとに片付きつつあった。
しかし、私の体には、別の限界が刻刻とづいていた。
妊娠週。 の胎児の推定体は、それぞれ千グラムを超えていた。
私の腹部は、皮膚が限界まで引き伸ばされて赤の妊娠線がり、触れるだけで激痛がるほどに膨れがっていた。 呼吸をするだけで肺が圧迫され、夜は座子に寄りかからなければ眠ることもできない。
「美咲さん、双胎妊娠は何が起きてもおかしくありません。しでも異常をじたら、夜でも迷わず救急を呼んでください」
回の健診で、主治医から厳に警告されていた。
そして、その夜がやってきた。
夜。 はたいのがっていた。
突然、腹部にハンマーで殴られたような激痛がった。
「……ッ!?」
声すらない。 息が止まり、全からや汗が噴きす。
布団ので悶えした瞬、太ももの内側を、温かい液体がぬるく伝い落ちていく覚があった。
破だ。
髪を入れず、子宮を雑巾のように絞りげるような、猛烈な陣痛の波が襲いかかってきた。 痛みの隔を測るまでもない。 いきなり、逃げのない激痛が連続して押し寄せてくる。
「お母……さん……!」
私は必に声を絞りし、隣の部の襖を叩いた。
「お母さん! 破した……! 救急……呼んで……!」
襖が勢いよくき、母がび起きてきた。 私の青ざめた顔と、濡れたシーツを見るなり、母のが震えた。
「美咲! しっかりして! 今すぐ呼ぶからね!」
くで、葵と結が目を覚まし、そうに泣きす声が聞こえる。
界がチカチカとく滅する。
お腹ので、つの命が激しく暴れていた。 まるで、『くにして』と叫んでいるかのように。