"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第18話
その誇りを、この域で証したいと考えています」
分の持ちが終した。
演台のでく礼する。
審査員席の誰として、嘲笑の笑みを浮かべる者はいなかった。
課がく頷き、静かに資料をめくる音が、静まり返った部に響いていた。
結果が発表されたのは、そのの夕方だった。
公民館の階ロビーの掲示板に張りされた採択通。
最優秀企画賞の欄に、黒々と私の名が刻まれていた。
『半の調理優先使用権、並びに域コミュニティ推事業としての採択を決定する』
文字を見つめる私の界が、じわりと滲んだ。
誰かの妻としてではなく。
誰かの母親代わりとしてでもなく。
「佐藤美紀」というの自したとして、社会からその労働と志を認められた瞬だった。
「おめでとう、美紀さん」
背からかけられた、穏やかな音。
振り返ると、コートを着た誠さんがっていた。
その隣には、し照れくさそうにマフラーに顔を埋めた遥ちゃんの姿もあった。
「……来てくれたんですか」
「発表の、ってたからね。邪魔にならないように、で待ってたんだ」
誠さんが優しく目を細め、胸ポケットからさな包みを取りした。
包みをけると、に入っていたのは、真しい真鍮のキッチンタイマーだった。
無駄な装飾のない、具としての美しさを備えた逸品。
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「しいスタートの、お祝いだよ。を正確に刻むための相棒だ」
「誠さん……」
受け取ったタイマーの属のみが、のひらによい。
その横で、遥ちゃんがぶっきらぼうに言った。
「お父さん、朝から落ち着かなくて、の本棚回も並べ直してたんですよ。みっともないったらありゃしない」
「遥、それを言うなよ」
困り顔でを掻く誠さんと、元を緩める遥ちゃん。
の姿を見つめながら、私は胸の奥底から温かい息を吐きした。
ここに、私の居所がある。
けれどそれは、私が誰かのために自分を擦り減らして買い取った席ではない。
お互いが自分のでち、適切な距を保ちながら尊しう、本物の関係だった。
採択から週。
公民館の調理で、来から始まる定期講座の備品チェックをっていたときだった。
ガラス戸の向こうに、杖をつきながらゆっくりと歩いてくるが見えた。
見覚えのある、柄な背。
田子だった。
元義母の姿に、私の背筋が自然とたく引き締まる。
けれど、揺はなかった。
私はに持っていた点検表を置き、静かに扉をけた。
「……何の用ですか」
子はを止め、恐る恐る顔をげた。
以のように私を「嫁」と見すような傲なは、その瞳のどこにも残っていなかった。
膝の術を終えたばかりの脚は痛々しく引きずられ、頬はこけ、髪が目に見えて増えている。
「美紀さん……」
掠れた、震える声だった。
「修から……聞いたのよ。ここで、料理の先をやってるって」
「ええ。ですが、ここは政の公施設です。私な用件なら、お引き取りください」
事務な私の拒絶に、子は怯んだように線を落とした。
そして、持っていた提げバッグから、油染みのついたさなノートを取りした。
差しされたそれを見て、私の息がわずかに詰まった。
私が結婚活ので、義実の台所に残してきた『付けメモ』だった。
くなった義父の血圧に配慮した減塩の汁の割。
子の好みにわせた、砂糖を控えめにした煮物の加減。
修の胃腸がったに作る、姜を効かせた粥の炊き方。
族の健康を守るために、私が、無償でき溜めて台所の棚に置いていた記録だった。
「私ね……退院してから、ヘルパーさんに来てもらってるの」
子は震える指先で、そのノートを抱きしめた。
「でもね、誰も……あなたと同じは作ってくれないのよ。がいとか、固いとか、文句ばかり言ってたけれど……修が買ってくる惣菜も、ちっとも喉を通らなくて。のが、がらんとして、寒くて……」
子の目から、粒の涙がこぼれ落ち、老いた頬を濡らした。
「私、今頃になって気づいたの。あなたがどれだけ、私たちの見えないところでを尽くしてくれていたか。
……男の嫁だからって、威張り散らして、抜きだなんて罵って……本当に、悪かったわ」