"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第13話
修は青ざめた顔で唇を噛み締め、震えるで個目の卵を割った。
講座が終わるまで、私は彼に度も個な言葉をかけなかった。
終、の受講者たちが笑顔でタッパーに料理を詰め、「美しかった」「でもやってみます」と挨拶して帰っていく。
修は番最まで残り、真っ黒に焦げた歪な卵焼きを、持参したタッパーに黙々と詰めていた。
そして、私の横を通り過ぎる際、く、くをげた。
「……ありがとうございました」
掠れたその声に、私は「お疲れ様でした」とだけ返した。
男の背が、い取りで公民館の廊に消えていく。
かつて庭という密で私を支配していた男は、社会という広いのでは、ただの料理もできない器用なに過ぎなかった。
そのれなを見送りながら、私は自分の元が、かつてないほど固にを踏み締めているのをじていた。
だが、あの男の執は、それだけでは終わらなかった。
週がけた曜の夕方。
勤務先の品配送会社を退勤し、最寄りのスーパーで買いしを終えて駅広にたときだった。
がり始める、公衆話の脇の灯のに、見覚えのあるコートのがっていた。
修だった。
傘も差さず、肩を濡らしながら、じっと私の改札を見つめていたのだ。
目がった瞬、逃げるもなく、修はに駆け寄ってきた。
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「美紀!」
私はを止め、買い物袋をしっかりと握り直した。
周囲には仕事帰りのサラリーマンや買い物客がき交っている。
目がある。密ではない。
「何の真似ですか。教以の所で待ち伏せをするなら、警察を呼びます」
私のえ切った警告に、修は怯えたように両を胸ので振った。
「違う、違うんだ! 暴れるつもりも、無理やり連れ戻すつもりもない! ただ……これだけ、これだけ渡したくて……」
修がバッグから取りしたのは、のハンカチに包まれた平たい物体だった。
包みを解く。
現れたのは、曜に彼が見せてきた、あのの紺の弁当箱だった。
蓋をけた瞬、私の孔を、微かに焦げた醤油の匂いがくすぐった。
に入っていたのは、歪な形をした汁巻き卵と、スーパーの売りコロッケ、そして胡麻を振った飯だった。
卵焼きの端は黒く縮れ、形も崩れている。
決してに見せられるような来栄えではない。
「……これ、俺が作ったんだ」
修の乾いた唇から、震える声が漏れた。
「昨の夜、回焼き直して……今朝、に起きて詰めた。おが、毎朝やってたのと同じに起きて」
たいが、修の濡れた髪から滴り落ちる。
「が震えたよ。油がねていし、汁を入れすぎると固まらないし……。おがどれだけ変なことを、毎、文句も言わずにやってくれてたか……俺、やっと分かったんだ」
私は何も言わず、ただその無惨な弁当を見つめていた。
「母さんの退院、来週に決まった」
修が、ぽつりと言った。
「おに言われた通り、病院のソーシャルワーカーと話したよ。介護休業の申請もした。……課には嫌を言われたし、同期にはろ指を指された。でも、母さんのオムツを替えて、リハビリの類をいて、で病院の廊に座ってた……俺、吐きそうになった」
修の目から、粒の涙が溢れし、と混ざりって頬を伝った。
「俺は、全部おに押し付けてたんだ。おが邪を引いた、飯の配しか言わなかったこと。母さんがおの料理をいって笑った、緒になって黙り込んでたこと。おが実のお母さんの危篤で幹線代をしてくれって言った……『無駄だ』って吐き捨てたこと」
修は膝から崩れ落ちそうになりながら、弁当箱を抱きしめた。
「全部、俺が悪かった。俺がクズだったんだ。頼むから……美紀、もう度チャンスをくれないか。俺、これからは事も全部半分やる。母さんの介護もおに触らせない。だから……」
半ばを過ぎた男が、の駅で、みっともなく顔をくしゃくしゃにして泣いている。
それは、嘘偽りのない、本物の悔だった。
先だけの言い訳でも、世体のための取り繕いでもない。
自分のでフライパンを焦がし、自分ので母親の排泄物を片付け、社会な体裁を失いかけて初めて辿り着いた、血を吐くような悔。