"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第10話
振り返ると、遥ちゃんがっていた。
先ほどまでの攻撃な態度は消え、どこか居悪そうに爪を見つめている。
「……あの」
「何?」
「……、ありますか」
遥ちゃんのさな声に、私は目を瞬かせた。
「お父さんの誕プレゼント、買いにこうとってて。……じゃ、何がいいか分からないから」
ぶっきらぼうな、けれどらかな歩み寄りの言葉。
私はさく笑って、頷いた。
「いいわよ。付きうわ」
翌の午、私たちは駅の商業施設にあるカフェにいた。
誠さんへのプレゼントとして、質な革のブックカバーを選んだ、遥ちゃんが「お茶でもんでいきませんか」と誘ってきたのだ。
運ばれてきたカフェラテをに、遥ちゃんはスプーンで泡をもてあそびながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「昨は、ごめんなさい。失礼なこと言って」
「いいのよ。当然の疑問だとうわ」
「……私ね、お母さんのこと、ずっと見てたから」
遥ちゃんが線を落とす。
その横顔には、歳の女にはすぎるが差していた。
「お母さん、このをくとき、自分の貯も全部して、お父さんを支えてたの。昼はパートにて、夜はこのの帳簿をつけて、私の面倒も見て……。お父さんは優しいだけど、自分のなこと以には本当に無頓着だから」
誠さんの横顔がい浮かぶ。
誠実で、温かい。
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けれど、確かに周囲の気遣いに甘えてしまう鈍さは持ちわせている。
「お母さん、だんだん笑わなくなっていった。ある突然、糸が切れたみたいに倒れて……そのまま、をてっちゃった。婚届だけ残して」
遥ちゃんの指先が、カップの縁をく握りしめる。
「私、お父さんをんでるわけじゃない。でも、お母さんが壊れていくのを見るのは、本当に獄だった。だから……またお父さんが誰かと結婚して、そのがお母さんみたいにすり減っていくのを見るのが、怖かったの。お父さんが、無識に相を搾取するのが怖かった」
胸が、く締め付けられた。
この子は、母親の犠牲をずっと特等席で見せつけられてきたのだ。
だからこそ、父親の再婚相に『代目の犠牲者』のを見て、必で威嚇していたのだ。
「遥ちゃん」
私はテーブル越しに、彼女の元を見つめた。
「教えてくれて、ありがとう」
「……え?」
「私ね、の結婚で、まさにその『すり減る側』だったの」
遥ちゃんが驚いたように顔をげた。
「毎に起きてお弁当を作って、義理の母の嫌を取って、自分のやりたいことは全部回しにして。それでも相からは『おは何もみしていない』って言われ続けたわ」
私の淡々とした告に、遥ちゃんは息を呑んだ。
「だから、私は誓ったの。度と、誰かのために自分を犠牲にしないって。
しているからといって、相の領域に踏み込まないし、私の領域にも踏み込ませない。もし誠さんが私を都のいい政婦として扱おうとしたら、私はでこの関係を捨てるわ」
「……で?」
「ええ。迷わず捨てる。私はもう、自分を粗末に扱うと緒にいられるほど、若くはないもの」
私の言葉に、嘘や誇張がないことを、遥ちゃんは瞬に見抜いたのだろう。
張り詰めていた肩の力が、ふっと抜けていくのが分かった。
「……そっか」
遥ちゃんはさく吹きし、それからアイスラテのストローをくわえた。
「じゃあ、した。佐藤さんなら、お父さんに押し潰されないね」
「美紀さんでいいわよ」
「……じゃあ、美紀さん」
のに流れる空気が、確実に変わった瞬だった。
だが、り際、改札ので遥ちゃんが投げかけてきた問いは、私の胸にく突き刺さることになった。
「美紀さん」
「ん?」
「もし……本当にもしもの話だけど。お父さんが病気になって、倒れて、誰かの介護が必になったら……美紀さんは、どうする?」
夕暮れの駅、々の喧騒ので、遥ちゃんの瞳がまっすぐに私を射抜いていた。
逃げのない、現実の問い。
私は数秒、呼吸をえ、それから答えた。
「制度を使うわ。使える公サービスを全部使って、プロのを借りる。誠さんの尊厳を守るために、私が潰れるわけにはいかないから」
「……たいって、われない?」
「倒れたを支える側が倒れたら、共倒れになるだけよ。最まで相を切にするために、私は徹な現実主義者でいるわ」