"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第1話
曜の午、澄んだ差しが差し込むキッチンで、私はやかんにをかけたところだった。
カウンターのに置いたスマートフォンが、くく震える。
ディスプレイに浮かびがった文字を見た瞬、臓がトクンと嫌なね方をした。
『田 子』
元義母の登録名だった。
半、緑の用を区役所に提し、完全に縁を切ったはずの相。
画面を睨みつけたまま、指先が張る。
鳴り止まない子音が、静かな畳の部をやけに々しく揺らしていた。
呼吸をつ落とし、通話ボタンをスライドさせてに当てる。
「もしもし」
私の声が落ちるか落ちないかのうちに、受話器の奥から湿り気のある声が崩れ込んできた。
「美紀さん? ああ、やっとたわ。あなた、今すぐ戻ってきなさい」
唐突すぎる物言いに、喉の奥が乾く。
「……はい?」
「修がね、キロも痩せてしまったのよ。昨夜久しぶりに実へ寄ったんだけど、顔はだし、スーツの肩なんて余ってぶかぶか。のもゴミだらけで、まともな事も摂れていないの。あの子、もう限界よ」
受話器の向こうで、わざとらしいをすする音が響く。
。
私が毎午に起き、汁を取り、彩りを考えた段の弁当を作り続けていた、このは度だって「ありがとう」と言わなかった。
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それどころか、週末に義実の掃除へ駆りされるたび、台所の隅を指でなぞりながら吐き捨てていたのだ。
『専業主婦でもないのに、息子にこんな抜き料理をべさせて。男の嫁としての自覚がりないんじゃないの?』
あのえ切った線が、の奥で鮮に蘇る。
「……それで、私にどうしろとおっしゃるんですか」
を削ぎ落とし、事務な声で返した。
義母は私の淡さに気づきもしない様子で、弾んだ声をげる。
「だから、戻ってくればいいのよ。修も反省してるわ。あなただって、を過ぎてできていくのは細いでしょう? 今戻ってくるなら、回の勝なのことはに流してあげるから」
に流す。
勝な。
協議婚のに、弁護士同席のもとで署名押印したのは元夫自だ。
それを、この母親ののでは「嫁のくだらない反抗期」程度にき換えられているらしい。
りを通り越して、たい失笑がこぼれそうになった。
「田さん」
「何よ、儀に」
「私と修さんは、半に法に婚しました。私はもう、あなたの息子の事を作る理由も、世話を焼く義務もありません」
「な、何言ってるのよ! あの子がどれだけ苦しんでるか――」
「度と掛けてこないでください」
元で切り声をげ始めた義母の言葉を遮り、赤の終話ボタンを押し込む。
通話が切れたスマートフォンのたいガラス面を見つめながら、私はゆっくりと息を吐きした。
やかんの湯が沸騰し、細い属音が鳴り響いている。
を止め、マグカップにドリップバッグをセットした、そのだった。
ピンポーン、と。
部のインターホンが、無質な音をてて鳴った。
宅配便の予定はない。
まさか、と背筋にたいものがる。
音を忍ばせて玄関へ向かい、ドアスコープに片目を当てた。
ののにっていたのは、見らぬ配達員ではなく、見慣れた、けれど酷く縮んだ背だった。
修だった。
チャコールグレーのコートの襟元は脂で黄ばみ、肩のあたりが自然に落ちている。
義母の言葉通り、頬はげっそりと削げ落ち、目のには濃い隈が張り付いていた。
そのには、く濁ったビニール袋が握られている。
居留守を使う選択肢がをよぎった。
けれど、ここで無をすれば、この男はドアのでち尽くし、所迷惑も顧みずにチャイムを鳴らし続けるだろう。
暮らしたからこそ、その勝な執着の底が透けて見えた。
私はドアチェーンをかけたまま、扉をセンチだけ引いた。
「何の用ですか」
隙から漏れた私の声に、修の肩がビクッとねる。
「……美紀」
濁った瞳が私を捉え、すがるように顔を寄せてきた。
「頼む、に入れてくれ。しでいい、話を聞いてほしいんだ」
「ここは私のです。赤のを部に入れるつもりはありません」