"十八万円を浮かせたい義母の計算" 第20話
並んだ料理は、所の仕しから取った折り詰めのオードブルと、母で煮込んだ鍋だった。座卓の端には、鉢に盛られた今の菜浅漬けが置かれていた。
、に運ぶ。塩気が均等にき渡り、シャキシャキとした歯触りがある。
「美しいですね」私が呟くと、義母がビクッと肩を震わせた。
「そう……? 由美さんたちがね、丁寧に洗ってくれたのよ。私、もう寒さにくなっちゃって、あんまり指図もできなかったんだけど……」
言い訳がましい言葉を、途でみ込むようにして義母は茶をすすった。自分の限界をり、の力に頼らざるを得ないことを受け入れたの、さくなった姿だった。
酒席は、驚くほど平穏にんだ。仕事の話、京の況、の予定。誰かが誰かを値踏みすることも、学歴を誇ることも、無償の労働を押し付けることもない。ただ、血の繋がったと、それに連なるたちが、当たりの節度を持って言葉を交わす。
午を過ぎた頃、事が段落した。
座卓のには、空になった鍋と、べ終えた皿が散らばっている。義母がよっこらしょとい腰をげ、空いた皿をね始めた。
そして、元に皿を集めながら、まるで染み付いたの習性のように、無識にをきかけた。
「織さん、台所で――」
その瞬、座敷の空気がピシリと止まった。
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義母の言葉が途切れた。自分のからかかった言葉のさに、義母自が気づいたのだ。義母は青ざめ、ねた皿を持ったまま、恐る恐る私を見た。
私はかなかった。りもせず、微笑みもせず、ただ静かに義母の目を見つめ返した。
座敷の央で、数秒の張り詰めた沈黙が流れた。
義母は喉を鳴らし、線を自分の元の皿へと落とした。そして、ぎこちなく、絞りすように言葉を言い直した。
「……あ、あの、みんなで、しずつ片付けましょうか」
驚の謝罪ではない。涙を流しての改でもない。だが、このプライドの塊のような歳の女が、自らの無識の搾取を自らのでみ込み、言葉を修正した。
それで分だった。過の分がすべて帳消しになるわけではないが、このにおける私のち位置は、逆の点まで塗り替えられたのだ。
「ええ、そうしましょう」
美紀さんがちがり、際よくグラスを集め始めた。私もちがり、鍋の蓋を閉めて両で持ちげる。
義母が慌てて美紀さんの元を見た。
「あ、美紀さん、いいのよ、あなたは座ってて……」
喉までかかったその台を、美紀さんは、軽やかな、鈴を転がすような笑い声で遮った。
「お義母さん」
美紀さんはねた取り皿を抱え、悪戯っぽく微笑んだ。
「では、お皿を運んではいけないなんて習いませんでしたよ」
座敷のに、瞬の静寂の、正志さんが吹きす声が響いた。続いて聡史が肩を揺らし、部全体に温かな笑いが広がった。
義母は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに、けれどどこかホッとしたようにさく元を緩めた。
「もう……美紀さんは、が達者なんだから……」
台所へ器を運ぶ美紀さんの背に、私も続いて歩きした。のにじる鍋の底は、まだじんわりと温かかった。
午半。
義理の実を辞し、母のへた。空からは、音もなく細かながいりてきていた。
のエンジンをかけにく聡史と正志さんの背を見送りながら、私と美紀さんは、氷の張った砂利のに並んでった。
吐きす息が、ふわりとく広がり、灯のに溶けていく。
「は、ひどい末だったわね」
美紀さんがコートのポケットに両を突っ込み、空を見げながら呟いた。
「ええ。タライをひっくり返したは、この世の終わりかといました」
私が答えると、美紀さんはフフッと声をてて笑った。
「でも、あの音がなかったら、私たちは今夜もあの座敷で、お互いに背を向けたまま虚像と戦っていたわ」
「そうですね」
が、美紀さんの黒髪のに筋、くい落ちて溶けた。
「織さん」
美紀さんが私を振り返った。その瞳には、嘘も、衒いも、押し付けられた板のみも、何つ残っていなかった。
「もし来、お義母さんが急に欲をして、菜を百玉注文しちゃったらどうする?」
私はしだけ考え、悪戯っぽく笑って返した。
「そのは、千円でプロの職を雇わせます。雇用契約のサインを見るまで、作業には歩も入れません」
「あはは! それがいいわ。契約は私がリーガルチェックしてあげる」
の笑い声が、静まり返ったの夜空にく響き渡った。
のクラクションがく鳴り、ヘッドライトのが私たちの元を照らした。それぞれが選び取った、自分のへと帰るだった。
私たちは、卒の男嫁と、何でもできる次男嫁ではない。ただ、それぞれのを持ったの女性だった。それを認めうまでに、しがかかっただけなのだ。