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"十八万円を浮かせたい義母の計算" 第17話

……俺はずっと、京で仕事をしていることを言い訳にして、実の面倒なことから目を背けていた。母さんが織さんに何をいて、どんな負担を押し付けていたかもろうとせず、『織さんはよくやってくれている』という母さんの言葉を、ただ都よく信じ込んでいただけだった」

正志さんの吐く息がく乱れる。

「男の体面ばかり気にして、汚い現実を全部弟夫婦に……織さんに丸投げしていたんだ。俺がもっとく実態を直していれば、こんなことにはならなかった」

私は黙って、目のにつ義兄の姿を見つめた。

りも、責めてるも湧かなかった。ただ、徹な事実だけがそこにあった。

「正志さん」

私は静かに言った。

「誰が悪いかを探すのは、もう終わりにしましょう。ただつだけ、お願いがあります」

「何でも言ってくれ」

「これからは、ご自分の母親の商売を、くから綺麗に眺めるのはやめてください。実態のない『伝統』や『族の絆』を維持するために、誰かのが無償で削り取られていないか、男として、経営者を見る厳しい目で確認してください」

正志さんは喉を鳴らし、再びくをげた。

「……肝に銘じるよ。本当に、すまなかった」

そのろから、美紀さんが静かに歩み寄ってきた。黒いウールコートの襟をて、袋をはめた指先で、夫の肩を軽く叩く。

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「邪をひくわよ、正志さん。戻りなさい」

正志さんは妻の顔を見つめ、さく頷いて母へと引き返していった。

静まり返った夜の帳のに、私と美紀さんのだけが残された。くの幹線をるトラックの音が、く響いている。

美紀さんは私に向き直り、元をわずかに緩めた。

「完璧だったわね、織さん」

「……お義姉さんこそ。あんなに容赦なく言い切るとはいませんでした」

「当然よ。事実を歪めて誰かを搾取するに対して、慮やけをかける必なんてミリもないわ」

美紀さんは息をく弾ませながら、澄んだ目で空を見げた。の夜空には、たく研ぎ澄まされたが瞬いている。

「私、正志さんにも言ったの。もし次に実で同じような茶番を繰り返すなら、婚も辞さないって」

「婚……ですか」

「ええ。の痛みに無自覚なまま、甘えた特権にあぐらをかき続けるとは、対等なパートナーシップなんて築けないもの。正志も、ようやく目が覚めたみたいだけれどね」

美紀さんは私の目を真っ直ぐに見つめ、袋越しに私のをしっかりと握った。ひび割れた私の指先に、じんわりと確かな体温が伝わってくる。

「織さん、を向きなさい。あなたの技術とは、あなたのものよ」

「……はい」

「また連絡するわ。今度は、のとしてではなく、の友として」

美紀さんはをし、軽やかな取りで母の玄関へと戻っていった。その背は、に私が初めて見たよりも、ずっとさく、そして何倍もしなやかで靭に見えた。

その夜、自宅マンションに戻った私は、リビングの照を煌々と点けた。

聡史は終くになってようやく帰宅した。玄関のドアをける音、い取り、ため息。リビングに入ってきた夫は、まるで嵐に遭った難破のようにボロボロだった。

「……織」

聡史はソファのにち尽くし、恐る恐る私を見た。

私はダイニングテーブルに座り、元に置いた枚の用から目をさなかった。婚届だった。私の欄は、すでに黒のボールペンで几帳面に記入してある。

聡史の顔から、瞬で血の気が引いた。

「おい……それ……」

「聡史、座りなさい」

私が命じると、夫は膝から崩れ落ちるように対面の子に座った。

「織、待ってくれよ! 俺が悪かった! 母さんの肩ばかり持って、おの辛さに気づかなかった! 今、母さんにもはっきり言ったんだ、『もう織には頼むな』って! だから、それだけは――」

「声がきいわよ」

私の平坦な言で、夫はを噤んだ。

私は婚届の端を指先でトントンと叩いた。

「別れるかどうかは、これからのあなたの次第よ。ただ、条件があるわ」

「条件……? 何でも聞く! 何でもするから!」

「、私はから、以勤めていたゼネコンの協力会社で施管理の職に復帰します」

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