"娘が義母に叩かれた日、娘婿はケーキで済ませようとした" 第12話
乾いた唇から漏れる言葉は、娘自がこの数週、ので何度も何度も研ぎ澄ましてきた刃だった。
「変わったからって、私のが元に戻るわけじゃない。壊れてしまった信頼は、元には戻らないの」
美咲は鞄から帳を取りし、ペンをらせた。翌のスケジュール。ゆり法律事務所の予約。婚協議に向けた提類の確認項目。
「お母さん、私、婚協議を正式にめるわ」
「ええ。あなたのよ。あなたが決めなさい」
娘は力く頷いた。誰かに背を押されたからではない。自らので、過のすべてを終わらせるための決断だった。
数、ゆり法律事務所を通じて、直さんの元へ正式な婚協議申入が発送された。
その面を受け取ったの直さんの衝撃は、像に難くなかった。母を追いしさえすれば、妻は必ず戻ってくる。そう信じ切っていた男にとって、それは遅すぎた現実の鉄槌だった。
実に戻された典子さんからも、狂ったような話が直さんの携帯に殺到していたという。
に直さんの妹から美咲に届いた連絡によれば、典子さんは毎、話で喚き散らしていたそうだ。
『あんた、あの女に婚を突きつけられたんですって!?』『だから言ったじゃないの! 母親を追いすような恩らずの嫁なんて、最初からろくなじゃないって!』『今すぐあのを売り払って、私に慰謝料を寄越しなさい!』
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かつての直さんなら、その号に恐れをなし、「母さん、落ち着いてくれ」「俺が悪かったから」と謝り倒していただろう。
だが、失の底に沈んだ直さんのからたのは、全く違う言葉だった。
「母さん、もうやめてくれ」
受話器の向こうで、典子さんの息が止まる気配がした。
「直……? 何言ってるのよ、あんた」
「美咲はね、母さんがこのに来たから婚したいんじゃないんだよ」
直さんの声は、掠れ、酷くかったという。
「美咲が傷つくたびに、俺がさせてきたからだ。母さんのご嫌を取るために、美咲のをも踏みにじり続けたからだ」
『な、何よそれ! 私のせいにする気!? 親に向かって何て言いなの!』
「本当のことだろ。……もう親戚に話して美咲の悪を言うのもやめてくれ。恥ずかしいよ」
典子さんは絶句し、やがてヒステリックに叫んだ。
『なら、なんであの女を追いかけて連れ戻さないのよ! あんた男でしょうが! 座してでも引っ張ってきなさいよ!』
直さんは、え切った居の真んで、ゆっくりと首を横に振った。
「連れ戻さないよ」
『は……!?』
「今度は、美咲が決めたことを尊したいんだ」
話を切った直さんは、そのままに座り込み、度と鳴り止まない母の着信を、源を切ることで遮断したという。
毛な逃避と共依の連鎖に、ようやく終止符が打たれた瞬だった。
だが、その目覚めは、失った代償のあまりのきさに比べ、あまりにも遅すぎた。
がまり、枯らしがのを揺らす頃、ゆり法律事務所の第応接で、夫婦の最終協議がわれた。
テーブルを挟んで、美咲と直さんが向かいって座る。美咲の隣には代理の弁護士、私の姿もあった。直さんはだった。弁護士の同席を断り、自分の言葉だけで美咲と向きうことを選んだのだという。
ヶ、ラウンジで会ったよりも、直さんはさらに痩せていた。スーツの肩が落ち、頬はこけていたが、その瞳からは、かつてのような卑怯な甘えや浮ついた焦燥は消え失せていた。
美咲の弁護士が、淡々と類を広げた。
「では、財産分与および物件のけ渡しについて、確認いたします」
提示されたのは、非の打ち所がない精算だった。
美咲が結婚に単独で購入した宅。残債の確認と、現の査定額。そして、直さんがに拠したリビングの改修費用、百万円。
「改修費用につきましては、奥様側から全額、現にて直様へ返還いたします。また、具等の所権についても、購入の拠割に応じて正確に分割します」
弁護士の言葉に、直さんは元の類をじっと見つめた。
「あの……」
掠れた声で、直さんがをいた。
「俺がした百万……引かなくてもいいです。