みかん小説
本棚

"娘が義母に叩かれた日、娘婿はケーキで済ませようとした" 第7話

そのの夜、直さんは美咲にメッセージを送った。

『母さんと話した。になっていて今は無理だ。もうしだけをくれ』

美咲からの返信は、わずかだった。

『分かった。でも、私は戻らない』

者択を迫られ、追い詰められた直さんが次に向けた矛先は、私だった。

翌の夕方、私の自宅のインターホンが鳴った。 玄関のモニターに映っていたのは、産も持たず、肩を落としてち尽くす直さんの姿だった。

私は彼を居に通し、温かい緑茶をした。

直さんは湯呑みにをつけようともせず、膝ので握りしめた拳を震わせていた。

「……お義母さん」

「何かしら、直さん」

「美咲のことです。あのマンションに美咲を匿っているのは、お義母さんですよね」

「匿うだなんて、聞きの悪い。娘が全に過ごせる所を用しただけですよ」

私の穏やかな返答に、直さんはの限界を迎えたように顔をげた。 その目には、やりのない苛ちと、つ当たりのが濃く浮かんでいた。

「美咲が変わってしまったんです! 昔の美咲は、あんなに頑なにを突き放すような子じゃなかった! お義母さんがろで恵をつけて、美咲をあんなににさせているんじゃないですか!?」

私は湯呑みをソーサーに戻し、音をてずに息をえた。

「美咲が、どう変わったというの?」

広告

「以なら、母さんとし揉めても、俺がに入れば『分かった』って言ってくれました! なのに今は、弁護士だのだの……族のでそんな酷な類を突きつけてくるなんて、異常ですよ!」

「直さん」

私は彼の目をまっすぐに見据えた。 声を荒らげる必はない。 事実は常に、静かにそこにある。

「美咲はね、以から私に相談していましたよ。お義母さんとの同居が限界だと」

直さんの呼吸が止まる。

「典子さんがヶだけと言って居座り始めた、あなたは美咲に何と言いましたか?」

「そ、それは……母さんが寂しがってるから、しのだけしてくれと……」

「ヶが過ぎ、事が終わっても帰ろうとしないお義母さんについて、美咲が『戻ってもらってほしい』と言ったは?」

直さんは線を逸らし、ごもった。

「……もうし様子を見ようと」

「半が過ぎたは?」

「…………」

「ヶが過ぎたは?」

居のに、が痛くなるほどの沈黙が落ちた。 古計の秒針の音だけが、規則正しく響いている。

「直さん。あなたはね、自分は度も決断をしていないつもりだったのでしょう」

私はゆっくりと言葉を紡いだ。

「母を追いすという決断もせず、妻を傷つける決断もしていない。誰の悪者にもならず、ただ穏便に波をてないようにしていたつもりだった。そうですね?」

直さんはさく頷いた。 それが免罪符になるとでも信じているように。

「でもね、違うのよ」

私は宣告するように、く告げた。

「決めないことも、つの決断だったんですよ」

直さんが息を呑み、顔を張らせた。

「あなたは『もうし待ってくれ』と言うたびに、美咲に苦痛を押し付け、美咲の尊厳を削り取るという決断を、毎し続けていたの。母を傷つけないために、妻を犠牲にするという選択を、あなたが自分で選んでいたのよ」

「お、俺は……そんなつもりじゃ……!」

「つもりがあったかどうかは関係ありません。現実に美咲が殴られ、を追われたという事実がすべてです」

直さんの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。 それは悔の涙ではない。 『優しい自分』という欺瞞の殻を割られ、逃げを失ったの、みっともない自己憐憫の涙だった。

「じゃあ……俺はどうすればいいんですか……! 母さんを捨てろって言うんですか!?」

「それを決めるのは、私でも美咲でもありません。あなた自です」

私はちがり、玄関への戸をけた。

「母の面倒を見るために妻を切り捨てるのか。妻との活を守るために母と境界線を引くのか。を過ぎたの男が、自分で背負いなさい」

直さんはふらつく取りでちがり、をげることもできずに私のをてった。

のたい夜が、その背を容赦なく打ち据えていた。

自宅に戻った直さんを待っていたのは、さらに輪をかけた獄だった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: