"娘が義母に叩かれた日、娘婿はケーキで済ませようとした" 第5話
兄が帰ってきたら、母は“てった女のなんて邪魔だ”って笑って……』
そして送られてきた最の枚。
美咲が昇したに買って切にしていたトレンチコートの裾を、義母のスリッパが無残に踏み躙っていた。
『兄は、それを見ても鳴りもしなかった。ただ顔を青くして、に落ちたコートを見つめてガタガタ震えてただけ……本当にけないよ』
リナさんの悔し涙の混じった声が、部のに落ちる。
画面に映る、無残に踏み躙られたコートのい皺。
それは、度と元には戻らない夫婦の境界線を、あまりにも残酷に、くっきりと浮き彫りにしていた。
美咲がをてからが過ぎた頃、私は央区の仮まいを訪ねていた。
夕暮れ、遮音性のいサッシのおかげで、の幹線の喧騒はほとんど届かない。 さなローテーブルに向かいい、で並んで箸をかしていた。
メニューは、所のスーパーで買った惣菜と、私が持参したの根の噌汁。 かつて義母が「汁のがしない」「直の好みじゃない」とで突き返した、あの付けのままだ。
美咲はゆっくりと噌汁を啜り、ふう、と静かに息を吐きした。
「……お母さん」
「何かしら」
「夜に何も起きないって、こんなに静かなんだね」
「そうね」
「誰かの音に怯えなくていいし、お呂の順番を気に病むこともない。
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……私、ずっと、毎何かに追われて息を止めてたんだとう」
美咲の元に、い苦笑が浮かんでいた。 頬の腫れは黄く変わり、輪郭を取り戻しつつある。 だが、その瞳に宿った温度は、元の無邪気な娘のものには戻っていなかった。
その静寂の裏で、かつてのがに残された直さんが何をわっているか、私にはに取るように分かっていた。 美咲のスマートフォンには、連、直さんからの着信履歴とメッセージが積みなっていたからだ。
最初は『話がしたい』『迎えにく』といった懇願だった。 それが目には『母さんの病院の予約票、どこにある?』『湯器のリモコンのエラーコード、どうやって消すんだ?』という、活の困惑へと変わっていった。
直さんは、美咲が築いていた平穏の正体を、何ひとつ理解していなかったのだ。
美咲がとなったその週、あので直さんがどんな獄をわっていたか。
それはに、彼自が美咲に許しを請うために、泣きながら状した内容でることになる。
平の昼がり、直さんの勤務先には典子さんからの私用話がひっきりなしにかかってきたそうだ。
『直、帰りに駅の薬局で湿布を買ってきて。美咲さんがいつも買ってたやつよ、銘柄はらないけど』
『の朝、形科までをしてちょうだい。
でバスに乗るなんて骨が折れるわ』
『キッチンの排が詰まりかけてるのよ。今すぐ業者を配しなさい』
最初は義務から引き受けていた直さんだったが、営業課としての激務のに母の果てしない求が割り込み、疲弊しきって帰宅すれば、台所には昼に使った器が放置されていたという。
「母さん、これくらい自分で洗っておいてくれよ」と零した直さんに、義母は言い放った。
『美咲さんは仕事から帰ってきたら、文句つ言わずに全部片付けていたわよ!』
その言葉のする残酷さを、直さんはその初めていらされたのだそうだ。
母が自できないのではない。ヶ、美咲を都のいい政婦として使い潰していたのだと。
そして週末の夜、美咲が切にしていたオーク材の作業机がリビングから消え、納戸の奥へ埃まみれで斜めに突っ込まれていたのことも、直さんは震える声で語っていた。
「あの机の削れた角を見たとき、喉が渇いて声もなかったんだ」
そう言って項垂れる男の告を、美咲はただややかに聞き流していた。
週がけた曜、直さんから美咲へ、文のメッセージが届いた。
『美咲、度だけでいいから会ってほしい。駅のイタリアンを予約した。おが好きだったテラス席のだ。
母さんのこと、これからのこと、ちゃんとで話したい』
美咲はその画面を私に見せ、さく息を吸い込んだ。