"夫の「俺の奢り」は、私のカードでした" 第9話
「無能だなんて……! 正斗は私の事な息子よ!」苗の声が震えた。
「じゃあ、お母さんが面倒見ればいいじゃないですか」望美は酷に言い放ち、カクテルグラスの残りをみ干した。
「さっきから聞いてれば、礼子さんがどうとか、妻の器量がどうとか……よくあんな来た奥さんを追いす気になりましたね。あのが全部裏で根回しして、支払いも体面もえてくれてたから、正斗さんは派な役員面ができて、お義母さんも優雅な奥様でいられたんでしょ?」
「ち、違うわ……! 私が正斗を育てたのよ! 私のよ!」
「はいはい。じゃあその派な息子と、で仲良くやってください」望美は伝票を掴み、ちがった。
「言っておきますけど、私、介護なんて絶対しませんからね。もし正斗さんと結婚したとしても、お義父さんとお義母さんの面倒は切見ません。それはご夫婦で考えていただく問題です。じゃあ、おやすみなさい」
カツカツとヒールの音を響かせ、望美はエレベーターへと消えていった。
暗いホテルのロビーに、苗は取り残された。空調のたいが、首筋を撫でる。ガタガタと、歯の根がわずに震えした。
『それは、ご夫婦で考えていただく問題です』
その言葉が、鋭い刃となって苗の胸を抉った。かつて礼子に押し付けてきた、無数の事。
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親戚への挨拶回りの配、義父の定期検診の送迎、義実のエアコンの買い替えから庭の剪定まで――。「嫁なんだからやって当然」と、謝の言葉つかけずに丸投げしてきたすべてのこと。
それを、しく迎え入れようとしていたは、秒で踏みにじった。便利で、文句も言わず、完璧にえてくれていた台は、もうどこにもない。
苗はよろめきながらちがり、夜ののへと逃げるようにびした。
だが、その夜の悪は、まだ半分も終わっていなかった。
ホテルの暗い非常階段の踊りで、スマートフォンの画面を睨みつけていた正斗の背に、たい声がってきた。
「……正斗さん」
振り返ると、部着のにジャケットを羽織った望美がっていた。苗をロビーで突き放したあと、荷物をまとめ直すために度戻ってきたのだ。
「望美……! 悪かった、の朝には別のを……」
「もういいって言ったでしょ」望美は階段のすりに寄りかかり、侮蔑を隠そうともせずに正斗を見ろした。
「さっき、あなたのお母さんが私のところに来たわよ」
「……は? お袋が?」
「ええ。『息子をよろしく』『老の面倒を見てね』って。ゾッとしたわ。あなた、私のことまで騙してたのね」
「騙してなんかねえよ!」正斗は焦って望美の腕を掴もうとしたが、払いのけられた。
「お袋が勝に言ってるだけだ! あんなババアの言うことなんか真に受けるな!」
「真に受けるな? でも、あなたはお母さんを利用して私を旅に連れてきたんでしょ? 『母さんが方だから丈夫だ』って」
「それは……」正斗の元が引きつる。
「礼子を黙らせるために、にお袋を矢面にたせただけだ。母さんは俺の言うことなら何でも信じるからな。あいつを方につけておけば、庭内での発言権を握れる。礼子が文句を言ってきたら、お袋に『嫁が気だ』って叩かせればいいとってたんだよ」
吐きされた言葉は、あまりにも醜悪で、計算いものだった。
「じゃあ、婚したは?」望美がく問い詰める。
「婚が成したら、あんな田舎の実ごと縁を切るに決まってんだろ!」正斗は自嘲気に吐き捨てた。
「誰があんなうるさい寄りの面倒なんか見るかよ。退職と遺産だけしっかり分与させたら、あとは適当に老ホームにでも放り込めばいいんだ。俺はおと、京で自由に暮らすんだよ」
正斗は望美の肩を抱こうとした。「だから望美、俺を信じてくれ。帰国すれば何とかなる――」
ピシリ、とたいが吹き抜けた。
望美は正斗のを、汚い虫でも払うように叩き落とした。その瞳には、もはやりすらなく、絶対な嫌悪だけが渦巻いていた。
「……本当に、最の男ね」
「何だと……?」
「自分の奥さんを便利な財布にして裏切って、自分の母親を盾にして使い捨てて。
そんな男が、私だけを切にするわけないじゃない」