"夫の「俺の奢り」は、私のカードでした" 第8話
婚協議の申入れとして承ります。以の連絡は、私の代理弁護士宛にお願いします』
送信。そして夫の番号を着信拒否に設定した。指先は、度も震えなかった。
同じ頃、マルセイユのホテルの暗い部。壁のいツインルームでは、耕造が疲れ果ててベッドに横たわり、い寝息をてていた。だが、苗はもできずにいた。
軋むベッドので膝を抱え、いシーツを握りしめる。の奥で、息子のあの声が反芻されていた。『母さんが余計な話をかけるからだろ!』『頼んでねえよ!』
あの子が、私に鳴った。あの正斗が。どんなも「母さんはすごいよ」「母さんの言う通りにするよ」と言っていた、自の息子が。
(違う……あの子が悪いんじゃない)苗は暗ので首を振った。爪がのひらにい込む。
(礼子よ。あの気な嫁が、悪であんな仕打ちをしたから、正斗も気がっているだけ。礼子がカードを止めさえしなければ、今頃みんなで付きのレストランで乾杯していたはずなのに……)
そうだ、望美さんに話を聞いてもらおう。あの子は気が利くし、私のことも慕ってくれている。正斗の妻にするなら、あんなえ切った礼子なんかより、嬌のある望美さんの方がずっといい。
苗は音をてないように部を抜けし、フロントへりた。
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望美が泊まっているホテルは、ここから通りを本隔てた所にある、し綺麗なビジネスホテルだと聞いていた。
夜の異国のを歩く恐怖など、混乱と焦燥で消しんでいた。苗はコートの襟をかきむしりながら夜を急ぎ、望美のホテルのロビーへと滑り込んだ。
ロビーのバーの片隅に、望美の姿があった。でワインのグラスを傾け、気怠そうに煙を燻らせている。
「望美さん……!」苗が息を切らしながら駆け寄ると、望美は骨に嫌そうな顔をして眉をひそめた。
「……お義母さん? 何でここが分かったんですか」
「フロントで聞いたのよ。よかった、まだ起きていてくれて」苗は望美の向かいの子に腰をろし、すがるようにテーブルにを乗りした。
「災難だったわね、望美さん。でもね、誤解しないでちょうだい。正斗は普段、あんな乱暴な子じゃないのよ」
「……はあ」望美は煙を細く吐きし、線をわせようとしない。
「全部、あの礼子って嫁が悪いの。あの子、昔からげがなくて、数字ばかり気にして。正斗がでし羽を伸ばすくらい、目に見て支えるのが妻の器量でしょう? それを、こんな異国のでカードを止めるなんて……鬼のような女だわ」
苗はで顔を覆い、微かに涙を浮かべてみせた。こうすれば、望美が「お義母さん、変でしたね」
と寄り添ってくれると信じていた。礼子を共通の敵に仕てげることで、しい嫁との絆を結べるとい込んでいた。
だが、返ってきたのは、グラスがテーブルに当たる乾いた音だった。
「お義母さん」望美の声には、のかけらもなかった。
「何かしら、望美さん」
「それ、私に関係あります?」
「え……?」苗の言葉が喉で詰まる。
「正斗さんと奥さんののトラブルですよね? なんで私が、夜に呼びされて愚痴を聞かされなきゃいけないんですか」
「で、でも、あなたと正斗は……将来を約束しているんでしょう? 礼子と別れたら、あなたが藤沢に来てくれるんじゃ……」
望美はさく吹きした。笑というより、本気で呆れ返ったような笑いだった。
「藤沢? くわけないじゃないですか」
「な……何を言ってるの? あなた、あんなに正斗に親切にしてくれて……」
「仕事ですよ、仕事」望美は煙のをトレイに落とした。
「藤沢物産の広報案件を継続して受注するため。次期社になるって言うから、顔をててごっこに付きってあげてただけです。勘違いしないでください」
苗ののが真っになった。鳴りがキーンとく鳴り響く。
「じゃあ……正斗が言っていた、京でで暮らすっていうのは……」
「京の部の初期費用も活費も、全部正斗さんがすって言うから頷いてただけです。
でも、カード枚止められただけであのザマでしょう? 会社のも差し押さえられたみたいだし、ただの無能じゃないですか」