"夫の「俺の奢り」は、私のカードでした" 第1話
机のに置かれた『欧州取引関係調査団・参加者名簿』の目。 そこに、夫のの名があった。
野望美。歳。 夫が社内の根回しで専属契約を結ばせた、部広報企企の代表。 そしてそのには、義父・耕造、義母・苗、夫・正斗、義妹・彩、その夫――。
藤沢の名が、ずらりと並んでいた。 私の名だけが、どこにもない。
添付された旅代理の見積に目を落とす。 を巡る豪華客、スイートルーム、バルコニー付き客。 バルセロナからマルセイユへと至るのクルーズ費用、現での専用配、内追加チャージ。 総額は、百万円を優に超えていた。
伝票の費目欄には、黒いインクで堂々と記されている。 『取引先拓に伴う現察および招へい費用』。
「……本気?」
乾いた呟きが、役員の静けさに吸い込まれた。 喉の奥が、砂をみ込んだようにひりつく。 りよりも先に、の芯が急速にえていくのをじた。
夫は先週、リビングのソファでくつろぎながら私にこう言ったのだ。 「親父の古希祝いは、俺が欧州張から帰ってきてから族だけでやろう」 「おはちょうど末の決算で忙しいだろうから、何も気にしなくていい」
優しい夫の顔を貼りつけ、私の仕事を気遣うふりをして。 その実、裏ではと義族全員を連れ、会社のでへ繰りすはずをえていた。
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義父の歳の祝いという錦の御旗を掲げ、私だけを本に置きりにして。
「藤沢取締役、こちらの承認印をいただけますでしょうか」 経理部の部が、困惑を滲ませた顔でデスクのにっていた。
「張の発はですが、営業本部から至急で仮払いの執を求められておりまして」
私は元の類から線をさず、呼吸をえた。 臓が肋骨の内側を激しく叩いている。 けれど、指先つ震わせてはならない。 ここで私が妻として取り乱せば、夫は「女のヒステリー」として片付け、社内の内に泣きついて揉み消すに決まっている。
ここは庭ではない。 私がかけて守り、数字の秩序を打ちててきた会社だ。
「止めてください」 私の声は、自分でも驚くほど平坦だった。
部が息を呑む。 「え……? 止める、とは」
「この申請の決裁はろせません。役員の親族が数同伴している、業務との直接の関連性が客観に証されていません」 私は万を置き、部の目をまっすぐに見据えた。
「関係類の子ログをすべて保全し、現点での仮払いを差し戻してください。それから、独監査の川さんを呼んで」
「し、しかし正斗本部が……」
「本部への説は私がします。会社のガバナンスに関わる問題です。急ぎなさい」
部が青ざめた顔で礼し、に部をていく。
ドアが閉まった瞬、奥歯をく噛みしめた。 こめかみの血管が、激しく拍していた。
分、監査担当の川が役員に入ってきた。 を過ぎた実直な男で、創業者である義父の代から数字の正を何より嫌う物だ。
「川さん、これを見ていただけますか」 私はデスクに広げた名簿と見積を示した。
川は老鏡をかけ、無言で類をめくっていった。 枚、また枚とが擦れる乾いた音だけが内に響く。 やがて、く刻まれた眉の皺が段とくなった。
「……名誉会の古希祝いですか」 川のい声が落ちる。
「はい。夫はこれを『取引先察』として全額経費で落とすつもりだったようです。しかも、野さんの会社に発された法カードも同費用の決済枠に組み込まれています」
「私な祝賀事への会社資の流用、および未示の利益相反取引……なコンプライアンス違反ですな」 川は顔をげ、私をじっと見つめた。 その瞳には、私のを慮るが微かに混ざっていた。
「奥さん、これは社内続きに乗せれば、正斗本部のを致命に脅かすことになりますが」
「構いません」 私は即座に遮った。迷いは微もなかった。
「族だからといって、公私混同を見逃す悪習を断ち切るために私は財務に入りました。法務と監査委員会に正規の調査事案として記録を残してください」