"売却済みの洋食店で、女将ごっこをする女" 第6話
黒田はクリアファイルから枚の契約を抜き取り、玲奈の目のに突きつけた。
「雇用契約ではありません。もちろん、役員登記もされていない。あなたはただの部委託先です」
「でも……! 私はマスターから、現の運営も任せると……」
「そのマスターとやらに、会社の職務権限を勝に委譲する法根拠はありませんでした」
黒田の言葉は、まるで氷の刃のように玲奈の言葉を断ち切った。
「契約に記載のない業務命令を従業員にすこと、および現の指揮を執ることは、業務委託の範囲を著しく逸脱しています。今、舗運営への関与は切認められません」
「そんな……」
玲奈の膝が目に見えて震え始めた。昨夜、浩司から送られてきた甘いメッセージを信じ込み、浮かれてこのエプロンを注文したの揚が、そのまま鋭い針となって自分に突き刺さっているのが分かるのだろう。
そこへ、がに歩み寄ってきた。には、のスタッフルームに掛けられていた予備のエプロンと、私物の袋があった。
は迷うことなく、レジの横に飾るように掛けられていたもう枚の『女将エプロン』をフックからした。そして、玲奈の目のに差しす。
「原田さん。これ、お持ち帰りください」
の声には、普段の温さのかけらもなかった。
「このに『女将』という役職はありません。
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お客様やアルバイトに無用な混乱を招きます」
「さん、あなたまで……!」
「昨も申しげました。私はしい経営陣の指示に従います」
は切線を逸らさなかった。
玲奈がこの半、浩司の寵を盾にして何をしてきたか。気に入らないアルバイトをシフトからし、自分の都でランチの予約をねじ曲げ、が何もかけて築いてきた接客の秩序を破壊してきたのだ。
玲奈は唇を血がるほど噛みしめ、黒田を見げた。
「浩司さんは……マスターは、このの番の功労者です! 彼が納得するはずがありません!」
黒田は淡に言い放った。
「個なお約束と、会社の役職は別のものです」
その言が、玲奈の最のを々に打ち砕いた。
そのの午、瀬亭のシャッターはろされたままだった。内では、黒田が率いる監査チームによる帳簿と備品の確認が、械な正確さでめられていた。
私は事務所の片隅で、自分の私物をさな段ボール箱にまとめていた。分の帳簿。税理士との往復簡。舗の修繕履歴。すべて私がで管理し、ファイリングしてきた記録だった。
事務所のドアが乱暴にき、浩司が入ってきた。コックコートのボタンを胸元までし、髪を振り乱している。
「美緒……! 頼む、考え直してくれ」
浩司はドアを閉めると、けない声をして私のにすがりついた。
数の傲な態度は跡形もなく消えっていた。
「俺が悪かった。玲奈のことは、ただの来だ。あいつとはを切る。今限りで契約も解除する! だから、あのエム・フーズとかいう会社との契約をに戻してくれ!」
「?」
私はを止め、浩司の顔を真っ直ぐに見つめた。
「株式の売買代は、すでに決済されたわ。法に私のかられたものを、どうやってに戻すの?」
「おがをげればなんとかなるだろう! 買い戻せばいい! なら……なら俺がこれから稼ぐ!」
「その稼ぐ所を、誰が維持してきたとっているの?」
私の静かな問いに、浩司は言葉を詰まらせた。
「あなたは先代が倒れたと同じ顔をしているわね、浩司さん。あのもそうだった。『なら稼ぐ、料理なら作る』って、そう言いながら、押し寄せる借の督促から逃げ回って、奥の部で震えていたのは誰?」
「昔のことを持ちすな!」
浩司が逆したように声を荒らげた。
「あのは仕方なかっただろうが! 親父が勝に作った借だ! 俺は被害者だったんだ!」
「私も被害者だったわよ」
私の声は、自分でも驚くほど平坦だった。
「でも私は逃げなかった。父が残してくれた遺産を担保にして会社を設し、債権者と交渉して、このの名と設備を守った。あなたを代表取締役に据えて、料理としてのプライドを傷つけないように配慮して……、あなたのとしてきてきた」