"売却済みの洋食店で、女将ごっこをする女" 第5話
その傲な台が落ちた瞬。
本が、フッとで笑った。
「本当に、そうってんのか? 浩司」
本の静かな声が、凍りついたフロアに染み渡る。
「おがここ数、仕込みを全部の奴らに押し付けて、自分は夜遅くまでみ歩いてたこと……客が気づいてないとでもってたのか?」
「なっ……」
浩司が言葉を失った。
黒田は瞥もくれず、背のスタッフに指示をした。
「本のランチ営業は休業とします。入に告をしてください。それからさん」
名を呼ばれたが、ハッと背筋を伸ばした。
「はい」
「庫の鍵と、過半の売報、およびシフト表をすべて事務所へ運んでください。これより、帳簿と備品の全数監査に入ります」
「承いたしました」
は迷うことなくをげ、事務所の鍵をにして歩きした。 その背には、溜め込んできた鬱屈から解放されたような、静かな覚悟が宿っていた。
「待ちなさいよ! 勝なことしないで!」
幸子が喚き散らしながら黒田のスーツに縋り付こうとしたが、同していた男性スタッフに無言で制止された。
「触らないでいただきたい。威力業務妨害で警察を呼ぶことになりますよ」
「け、警察……!? 棒はあんたたちでしょうが!」
取り乱す義母の鳴。 呆然とち尽くし、胸元の刺繍を爪で引きちぎりそうになっている玲奈。
広告
そして、類をにして膝から崩れ落ちそうになっている浩司。
彼らが信じ切っていた「の」は、最初からなどしていなかった。 私が、ただ彼らのプライドのために貸し与えていたの台。
その照を、私は自分ので、完全に消したのだ。
入のから、晩のたいが内に吹き込んできた。 ドアのベルが、もう度、く乾いた音を鳴らした。
乾いたベルの余韻を断ち切るように、私はエントランスのから歩、フロアへとを踏みした。
背筋を伸ばし、を踏みしめる。ヒールのい音が、息の詰まるような内に響いた。
「……美緒?」
浩司の喉から、掠れた声が漏れた。私を見つめる目は信じられないものを見るように見かれ、だらしなく半きになったが微かに震えている。
「お、なんでここに……」
「引き継ぎよ」
私は線を浩司からし、隣につ黒田に向かってわずかに会釈した。持参していた黒いレザーのブリーフケースをけ、テーブルのにつの物を並べる。
株式会社瀬企画の代表者印。法座の認証トークン。そして、昨付で完した株式譲渡の契約控え。
「黒田様。予定どおり、法の物品および登記関連類式です。昨お振り込みいただいた売買代の着も、先ほど確認いたしました」
「確かに。
お疲れ様でした、様」
黒田は袋をはめたで印鑑ケースを受け取り、同の法務担当者に渡した。流れるような、無駄のない所作。浩司たちが何もかけて積みげてきた「族経営」という曖昧な甘えを、質な現実が次々と塗りつぶしていく。
「お、おい! 勝なことするな!」
浩司が鳴り声をげ、私の元に掴みかかろうとした。だが、その腕は黒田に同していた男性スタッフによって、静かに、しかし力く制止された。
「せ! 美緒、おなんのつもりだ! 俺に黙ってを売りばすなんて、そんな横暴が通るわけないだろうが!」
「横暴?」
私はややかに浩司を見つめ返した。
「、度でもあなたがこの会社の決算を真剣に読んだことがあった? 株主総会を招集する権利が誰にあるか、度でも考えたことがあったかしら」
「そ、それは……!」
「あなたはただ、末に届く売から自分の役員報酬を受け取り、現で『代目』とお客に持ちげられるよさに浸っていただけよ」
浩司の顔が、屈辱で赤黒く引きつる。その隣で、桜のエプロンをにつけた玲奈が、すがるような目で私と黒田を交互に見つめていた。
胸元に輝く、糸の刺繍。『瀬亭 女将 玲奈』。
黒田は線を玲奈へと移した。品定めするような、怜悧な差しだった。
「原田玲奈様ですね」
「え……あ、はい」
玲奈は縮こまり、エプロンの裾をぎゅっと握りしめた。
「当社法務が事に精査いたしました。あなたと株式会社瀬企画との契約は、舗のSNS広報支援に関する『業務委託契約』です」