"「妻も了承した」夫が勝手に約束したのは、亡き母のマンションだった" 第10話
リビングのドアをけると、夫がソファに寝転がり、テレビを見ながらポテトチップスを齧っていた。 私の姿を見るなり、鬱陶しそうに眉をひそめる。
「遅かったな。飯は? どっかで適当にってきたのか?」
私は返事をせず、ダイニングテーブルの子を引いて座った。 鞄からスマートフォンを取りし、画面をちげる。
「悟さん。テレビを消して」
私の声の異様なさに、夫のが止まった。 リモコンでテレビを消し、億劫そうに体を起こす。
「何だよ改まって。またマンションの話か? もう売っちまったもんは仕方ないだろ、蒸し返すなよ」
「マンションの話じゃないわ」
私は画面に映るメッセージを、文字ずつ、はっきりと読みげた。
「『来るな。奈美はおたちに同されるのを番嫌がってる。余計なことするな。奈美のことは俺が番分かってる』」
夫の顔から、瞬でが抜け落ちた。
ポテトチップスをつまんでいた指が、宙で凍りつく。
「……お、それ……」
「、私の母がくなったの、あなたが真紀さんに送ったLINEよ」 私は夫の目を、逃げのない角度から見据えた。
「真紀さんは、私のに来て伝おうとしてくれていた。母をくしてで泣いていた私を、配してくれていた。それをあなたが止めたのね」
夫の喉が、ヒュッとさく鳴った。 あのは線を彷徨わせ、額にじっとりと脂汗を浮かべ始めた。
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「な、何見てんだよ……勝にの昔のLINEなんか引っ張りして……!」
「どうして断ったの?」
「だ、だから! あのはおが落ち込んでたから、気を遣ったんだよ! 親戚が勢押し寄せたら、おが疲れるだろ!?」
「真紀さんよ」 私は髪を入れずに切り捨てた。
「お義母さんにも『奈美が距を置きたがってる』と嘘をついた。そのせいで、お義母さんは私が実を見していると信じ込み、今まで私を攻撃し続けた」
「それは……母さんが勝に勘違いしただけで……!」
「嘘を吐かないで!」 私の徹なが、静まり返ったリビングを切り裂いた。
夫の肩が、びくりとねる。
「あなたはっていた。私がで泣いていたことも、義族からの連絡が途絶えて絶望していたことも、全部っていた。そので、みんなが私を嫌っていると私にい込ませた」
夫の呼吸が荒くなる。 言い逃れの言葉を探して、線が泳ぎ、唇が震える。 だが、突きつけられた事実はあまりにも具体で、言い訳の余などどこにも残されていなかった。
、完璧に守り続けてきた「優しい調者」のが、元から音をてて崩れ落ちていく。 追い詰められ、逃げを完全に塞がれた夫の顔から、ついに理性の仮面が剥ぎ取られた。
あのは顔を醜く歪め、き直ったように私を睨みつけて叫んだ。
「……だったら何だよ!!」
リビングの空気が、凍りついた。
「母さんたちと仲良くさせたって、どうせ揉めるだけだろうが! おがうちの族に馴染めないのは事実だろ! 俺がに入って守ってやってたんだよ!」
「守る?」 私は乾いた笑みを漏らした。
「私を孤させて、族全員から孤させて、何を守ったというの?」
夫はの穴を膨らませ、狂気を孕んだ目で私を見ろした。 そして、私ののすべてを冒涜する、決定な言を吐き捨てたのだ。
「だって、おには俺がいただろ」
……は?
「母さんも妹たちも関係ないだろ! おには俺がいて、俺が全部面倒見てやってたじゃないか! 俺だけを頼ってれば、おは何も困らなかったんだよ!」
背筋が、氷に浸されたようにたくなった。
この男は、本気でそうっているのだ。 妻の関係をズタズタに引き裂き、親族の善をすべて遮断し、暗のに閉じ込めておきながら。 「俺というを与えてやった」と、本気で信じ込んでいる。
ではない。 保護でもない。 ただの、醜悪極まりない支配欲。 自分が誰かにとっての「唯の救い」であり続けるために、私のを檻のに閉じ込めて飼い殺しにしていたのだ。
喉の奥から、乾いた息が漏れた。 私ので、の夫婦のが、完全に無へと還っていった。
「そう」
私は静かにちがり、夫の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「だから私は、あなたしか頼れなくなったのね」
「……あ?」 夫が拍子抜けしたような顔配を見せる。