"実母の50万円、義母の500万円" 第10話
息を吸い込み、私は最の撃を淡々と告げた。
「あのの夜に、私たちの答えはもうていたのよ」
「美咲、待ってくれ! 美咲――!」
私は通話を切り、その番号を即座に着信拒否リストへと登録した。
ヶ。
法律事務所の会議で、私たちは弁護士を挟んで向かいった。
夫は頬がこけ、スーツの肩幅が余るほど痩せ細っていた。かつての傲な課の面など、どこにもない。
義母の級施設入居は完全にとなり、実の産は義弟の健太と司法士が厳格に保全することになったという。夫には円の遺産も入らない。
「……財産分与の条件に、異議はありません」
夫は掠れた声で呟き、震えるで婚協議にペンをらせた。
婚姻に形成された共財産は厳密に折半され、私の特財産である百万円には円たりとも指を触れさせなかった。
朱の印鑑が押された瞬、の婚姻関係が法に消滅した。
そので私は役所へ向かい、婚届を提した。
窓でしい民票を受け取ると、そこには旧姓である「森田美咲」の名が静かに刻まれていた。
役所の自ドアをると、ひとつないの青空が広がっていた。
肺いっぱいに吸い込んだ空気は、どこまでも澄んでいて軽やかだった。
私の座も、私のも、もう度と誰かの虚栄のためにかれることはない。
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私は背筋をピンと伸ばし、しい自分の暮らしへと迷わず歩きした。
婚届を受理されてから、が過ぎた。
季節は巡り、の柔らかな差しが総病院の待ロビーを照らしている。私は腸がんの術を乗り越えた実母・の定期検診に付き添っていた。
「美咲、もうで歩けるから丈夫なのに」
杖も使わずに歩く母が、申し訳なさそうに微笑んだ。顔も声の張りもすっかり元通りになり、常の平穏を取り戻している。
「いいのよ。今は午の仕事までがあるから」
母の診察券を再来受付に通した、ふと界の端に見覚えのあるろ姿が映った。
リハビリ科の受付カウンターのに、柄な老婦が背を丸めて座っていた。かつて級料亭で虚栄を張り巡らせていた元義母、代だった。
仕ての良いスーツではなく、量販のなカーディガンを羽織っている。付き添う息子の姿はなく、押しを頼りにで処置を待っていた。
義母がふと顔をげ、私の姿を認めて微かに目を見いた。
「……美咲さん」
その声は以の圧な響きを完全に失い、掠れていた。
「お久しぶりです」
私はち止まり、歩ほど距を保ったまま会釈した。
「お母さんの検診?」
「ええ。経過も順調です」
義母は私の隣につ母をちらりと見て、それから気まずそうに線を落とした。
「公平から、何か連絡はあった?」
「弁護士を通じて切の接触を禁じていますので、何もありません」
私が事務に告げると、義母は自嘲するように乾いた笑いを漏らした。
「あの子、賃のいワンルームに引っ越したのよ。親戚から相にされなくなって、健太とも絶縁状態よ」
千百万円の実は健太が法に管理しており、公平には円も渡っていないという。母親に恩を売り、妻のを奪おうとした男の、これが当然の末だった。
「あのね」
義母は押しのグリップをぎゅっと握りしめ、私をじっと見つめた。
「あんたが『病院に直接支払う』と言わなければ、私はぬまであの息子の浅ましい嘘に気づけなかったわ。私のを守るふりをして、自分の取り分を計算していたなんてね」
「お義母さんのためではありません」
私は迷いなく、静かに言い切った。
「私自のおと尊厳を守るために、当たりの筋を通しただけです」
義母はそれ以何も言えず、くを垂れた。
そこへ護師から母の名が呼ばれた。私は義母にさく礼し、迷わず背を向けた。
診察を終えた、母と病院内のカフェで温かいお茶をんだ。
母はバッグの奥から、さく折り畳まれた茶封筒を取りして私の元へ差しした。
「美咲、これ。こののリハビリ用の装具、自治体から補助が戻ってきたのよ」
封筒の隙から、きっちりと揃えられたお札が見えた。
「お母さん、これは持っていなさいよ。次の診察代に使えるでしょう」
「だめよ。あの、美咲は私を助けるために貸してくれたんだから」
母は私のを包み込むように握り、穏やかに笑った。
「族だからって、おのけじめを曖昧にしちゃいけないの。借りたものはきちんと返す。それが当たりの礼儀でしょう」
胸の奥に、温かいが静かに広がっていくのをじた。
族という言葉を盾にしての財産を貪ろうとした元夫たちと、族だからこそ対等な敬を払おうとする実母。
「ありがとう、お母さん。ありがたく受け取るわ」
私は封筒を切に受け取り、鞄にしまった。
誰かの浅ましい見栄のために、私の座がかれることは度とない。
守り抜いたおと、取り戻した平穏。
私は母と並んで歩きながら、の柔らかなのへと踏みした。