"検事採用面接の朝、夫は「妹のために辞退しろ」と言った" 第11話
もう、この男に割くは秒たりとも残されていない。
私は凛として背筋を伸ばし、度だけ親族同へ会釈した。
そして、誰言葉を発せない座敷をにした。
たい夜が吹き抜ける料亭のをくぐった瞬、胸の奥を満たしていた苦しい澱が、すっと消えていくのをじた。
自分ので、自分のを切り拓く。
その覚悟のに、もはや恐れるものは何つなかった。
タクシーのたい革シートに背を預け、私はく息を吐きした。
料亭の温かい空気も、あの母子の醜悪な号も、夜のの向こうへ急速にざかっていく。
自宅へ戻ったのは、夜の過ぎだった。
リビングのかりをつけ、私は迷わずクローゼットをけた。
傷に浸るなど、秒たりともない。
あらかじめ用していた型のスーツケースに、必な類と類を際よく詰め込んでいく。
司法修習の記録。
分証。
共同座の取引細と、林との契約のコピー。
私の未来に必なものだけを、確実に元に残す。
この部に残すのは、あの男が勝に作りげた「従順な妻」という空虚な抜け殻だけだ。
翌朝の。
配していた引っ越し業者のトラックが、建物のに滑り込んできた。
夫は昨夜から親戚に絞りげられているのか、それとも義母の元で言い訳に追われているのか、度も姿を見せなかった。
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鍵をテーブルのに置き、私は度も振り返ることなく部をた。
駅から徒歩分の、静かなウィークリーマンション。
荷解きを終えるやいなや、私はパソコンをき、法務の式をちげた。
の画面に、淡々と文字を打ち込んでいく。
しみやりといった私は、文字たりとも混ぜない。
事実と条文だけを並べた、徹な刃。
『通』
受取:神田裕。
差:神田玲奈。
内容証郵便の作成だ。
無断で引きされた万円について、法為に基づく損害賠償、および当利得返還請求としての全額弁済を求める。
支払期限は、到達週以内。
指定座への括振り込み。
さらに、別居に伴う婚姻費用の分担請求も同封した。
論で逃げ回る男には、数字と法律という最もい現実を突きつけるに限る。
郵便局の窓で発送続きを終えた、スマートフォンの画面が激しく点滅した。
夫からの着信だった。
画面をスワイプし、に当てる。
「……もしもし」
『玲奈! どこにいるんだよ! に帰ったら、おの荷物が全部消えてるじゃないか!』
受話器の向こうで、夫が半狂乱になって叫んでいる。
「荷物はすべて引き払いました。これからは別居します」
私の淡な声に、夫の息が詰まる。
『待ってくれよ! 昨のことは本当に悪かったって! 俺だって被害者なんだ、母さんに唆されたんだよ!』
また、のせい。
どこまでも自分を守ることしかにない男の姿が、鮮に浮かびがる。
「言い訳はです。先ほど、あなた宛てに内容証郵便を発送しました」
『な……内容証……!?』
「共同座から横領した万円の全額返還と、別居の婚姻費用の請求です。期までに振り込みが確認できない、直ちに民事訴訟の続きへ移します」
『玲奈、頼むからやめてくれ! 夫婦ので裁判だなんて……会社にられたら俺の昇が消えるんだぞ!』
を疑うような台に、乾いた笑いがこぼれそうになった。
自分の庭を壊し、妹のを蔑ろにした男が、今なお気にしているのは自分の世だけ。
「あなたの昇など、私には微も関係ありません」
私は容赦なく言い放った。
「すべての連絡は、今送付する面を通じてってください。度と私の携帯に直接話をかけてこないで」
通話を切り、着信拒否の設定を入れた。
界がどこまでも澄み渡っていく。
腐りかけた関係を切り落とす痛さが、指先から全へと広がっていった。
の午。
修習先の図館で判例を調べていると、彩佳からいメッセージが届いた。
『お義姉さん、今しだけ話できますか?』
テラス席へ移し、通話ボタンを押す。
受話器の向こうから聞こえてきたのは、微かに震えながらも、芯の通った彩佳の声だった。
「お義姉さん……私、受かりました」