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"花嫁が逃げた祝言で、毒を盛られた若旦那が選んだ女中" 第5話

自分はも聞こえずもきけぬ女であり、たとえ言葉を発したところで、誰がこれほど卑しい者の言葉を信じてくれるだろうか。そればかりか、をいた瞬、自分自の素性までもが暴かれてしまう。

お染は言葉が話せないわけではなく、並みに聞き、並みに話すことができた。ただが聞こえずもきけぬふりをして、世の目を欺き隠れ潜んできてきたのである。

お染の本来の名は「染」といい、隣国の格式ある名な医の1娘だった。父は代々の系を継ぐ名医としてられ、をり、薬をり、の病の本質を見通すを持っていた。

幼い頃から父の傍らで育ったお染は、父が薬を調する姿を何度も見て、薬の名と性質、毒と薬を見分ける術を全て背越しに学んでいた。

「薬と毒は、元を正せば同じ1本の根からじるものなのだよ。同じであっても、用い方次第でをかしもすれば殺しもする。毒をらねば、どうしてをかすことができようか」

父は幼い娘によくそう語りかけ、1度目にしたことは決して忘れない聡な娘を見ては、おが男であったならこの父を遥かに凌ぐ医者になっていただろうにと目を細めてんでいた。

しかし、お染が16歳を迎えた、に恐ろしい災いが振りかかった。権力を誇る武の臣の病を診ていた際、その内の跡目争いに巻き込まれ、父が故にをに至らしめたという無実の罪を着せられたのだ。

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名の柄は夜にして瓦解した。父は牢に囚われ、過酷な詮議の末に無のを遂げ、母もまた労のあまり病を発して父のを追うようにくなった。

いまわの際、母はお染のを固く握りしめ、涙を流しながら遺言を託した。

「染、おだけは何としてもき延びるのです。がの血筋はもうお1しか残されていません。どのような目に遭おうとも、いつくばってでも命を繋ぎなさい」

「お母様、私を置いてどこへってしまわれるのですか。お母様」

お染は母のの裾を掴んで慟哭したが、医は罪のとして財を没収され、奉公たちは散り散りになって朝夕にして涯孤独のとなった。

幼い頃からに仕えていた老いた乳母がお染を密かに連れし、見すぼらしい着物を着せて美しい顔に炭を擦りつけ、涙ながらに言い含めた。

「お嬢様、これからはが聞こえずもきけぬ具のふりをなされませ。罪の娘がきているとれれば、すぐさま命を奪われてしまいます。言葉を発すればお武育ちの言葉遣いがますし、文字をっていればすぐに正体がれてしまいます」

乳母はそう言い残し、お染を逃がすために追っの代わりとなってくなった。あのを境に誇りき医の娘はに、物言わぬ女としてのお染がまれたのだ。

く当てもなく戸の町を彷徨い、飢えと寒さで庄の表のに倒れていたところを優しい宇兵に救われ、台所働きとして2のを息を潜めてきてきた。

誰にもを許さず、誰のことにも関わらず、ただのようにきることだけがき残る唯のだった。それなのに、にかけている若旦の妻となり、その夫を毒殺しようとする謀を目撃してしまったのだ。

見ぬふりをしていればそれで済む。自分が薬をませずとも権蔵は別のを使ってくるだろうし、自分はただ気づかぬふりをしてき残ればいいと、お染はので激しく葛藤した。

だが次の瞬、お染は首を横に振った。昼の祝言の庭で、に瀕しながらも澄んだを放っていた源の瞳と、卑しい台所働きの自分を伴侶に選んでくれた真っ直ぐなを、どうしても見捨てることはできなかった。

医者のはを選ばぬものだという父の教えをいし、夜がみ始める頃、お染は自分ので夫を救ってみせると固い決をした。

お染は袖の袂に隠した毒入りの器を取りし、を指先にしだけ乗せて灯のに透かしてみた。、粒の細かさ、微かな匂いを注く探り、それが砒素に別の珍しい薬剤を調した複雑な毒物だと破した。

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