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"「寝かせた金」と呼ばれた一千万円" 第15話

……織さん、本当にありがとうございました。私、戦います』

私は静かに息を吐いた。

亮介の自業自得だ。

のをあてにして見栄を張り、の丈にわないに踊らされた男の当然の末。

義母が溺し、甘やかし続けた次男坊のは、今このをもって完全に破綻した。

そして、残るは。

翌朝、午分。

区役所の正面玄関。

青空の、初のが吹き抜けていた。

自ドアの脇に、見覚えのあるがっていた。

夫の健だった。

昨のスリーピースのスーツは皺だらけで、ネクタイは曲がり、目のには黒々とした隈が張り付いている。

頬には、昨亮介と殴りったの赤黒い痣が痛々しく残っていた。

私を見つけると、夫はを引きずるように駆け寄ってきた。

「織……!」

掠れた、みっともない声だった。

「待ってたよ……昨は実に泊まったんだ。荷物が届いて……鍵も変えられてて……お、本気だったのかよ」

「本気じゃなかったら、朝のにここへ呼びしたりしないわ」

私は淡に言い放ち、区役所のロビーへと歩きした。

夫が慌てて私のろをついてくる。

「待ってくれ! 頼むから、に入るにし話を聞いてくれ! あそこのベンチでいいから!」

夫が私の腕を掴もうとした。

私はをかわし、たい線で夫のきを制した。

「話なら、ここで聞きなさい。

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に」

ロビーの喧騒の片隅。

夫は周囲の目を気にするように肩をすくめ、すがるような目で私を見つめた。

「織……全部認めるよ。俺が浅はかだった。亮介にいい顔したくて、母さんに褒められたくて……おのをあてにした。本当にすまなかった」

夫は両をわせ、をげた。

「でもな、織! 俺たち、も緒にいたじゃないか! もも緒に越えてきた夫婦だろ!? 確かに俺は違えたけど、おのは円も減ってない! 実害はてないんだ!」

喉の奥から、乾いた笑が漏れそうになった。

実害がていない?

私の署名を偽造し、の結晶を奪おうとした事実そのものが、最の害毒だというのに。

「今朝、会社から連絡があったんだ……」

夫の声が、恐怖で震え始めた。

「コンプライアンス委員会から呼びしをらった。取引先とのキックバックの件、匿名の内部通報があったらしい……。来週、本格な調査が入る。もう、課の子は守れない。懲戒解雇か、良くて方の閑職への向だ……」

夫は膝を折るように腰を落とし、私のにち尽くした。

「俺にはもう、おしかいないんだよ……! 仕事も失って、母さんたちとも気まずくなって、おにまで捨てられたら、俺のは本当に終わりなんだ! 頼むからやり直してくれ! これからはおの言う通りにする! 料も全部預ける! だから……!」

「健さん」

私はその見苦しい懇願を、平坦な声で遮った。

「あなた、何か勘違いしていない?」

夫が涙で濡れた顔をげた。

「私はあなたの保護者でも、更施設でもないの。あなたが会社で正を働いたのも、親族ので見栄を張ったのも、全部あなた自の選択よ。そのツケを、なぜ私が背負わなきゃいけないの?」

「だ、だから夫婦だろ……!?」

夫の元が引きつり、逆と願が入り混じった顔になった。

「の夫婦のが……たった千万円に負けるのかよ!? おはと俺、どっちが事なんだ!?」

最にてきたのが、その言葉だった。

の絆を質に取り、罪を犯した自分を正当化し、あまつさえ相を「酷な拝主義者」に仕てげようとする、救いようのない傲。

私は、バッグから取りした類を、夫の胸元へ突きつけた。

『婚届』。

「違うわ」

私の声には、りすら含まれていなかった。

絶対な零度。

刃物のように研ぎ澄まされた、静寂の宣告。

「も緒にいたのに、あなたは私に言の相談もなく、私の名を偽造し、私のの基盤を盗もうとした。それが答えよ」

夫の息が止まる。

「おの問題じゃない。あなたは、私をの対等なとして見ていなかった。ただの都のいい内、に尽くして当然の雑用係、いざとなればを吸いげられる庫としかっていなかったのよ」

「織……」

「その傲さが、私には耐えられないの。印鑑を押しなさい」

夫は類を見つめ、刻みに首を振った。

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