"「寝かせた金」と呼ばれた一千万円" 第13話
「あんた、私にパートを辞めさせて、全部うまくいくって言ったじゃない! 兄貴とグルになって、のでいい気になって……! 私を破産させる気だったの!?」
「は、せよ真理! 俺だって被害者だ!」
亮介が真理のを振り払おうとして、テーブルののビール瓶が倒れた。
黄い液体が、豪奢な刺の盛りわせのにドバドバと広がっていく。
亮介は夫を指差して喚き散らした。
「兄貴が言ったんだろ! 『織は子どもがいないろめたさがあるから、俺がく言えば絶対にをす』って! 『千万引っ張ってくるから、俺を専務にして毎万払え』って持ちかけてきたのは兄貴の方だろ!!」
「てめえ、亮介!!」
夫がちがり、亮介の胸倉にびかかった。
「誰ので今まできてきたとってんだ! おが無能だから、俺が助け舟をしてやったんだろうが! 契約にサインしたのはおだろ!」
「助け舟だあ!? 自分の横領の隠蔽に俺のを使おうとしただけじゃねえか! この棒野郎!」
ドガッ、と鈍い音が響き、兄弟が料理の散らばる畳のでもつれって倒れた。
グラスが割れ、皿が砕け散る。
親戚たちから鳴ががった。
「やめなさい! やめなさいよとも!」
義母が髪を振り乱し、引き裂かれた着物の裾を踏みながらを引き剥がそうと叫ぶ。
「親戚ので、の恥を晒すんじゃないわよ! 誰か止めて! お兄さん、止めてちょうだい!」
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だが、叔父たちは誰としてかなかった。
「……久美子さん、悪いがうちはもう帰らせてもらうよ」
の叔父が、え切った声で言った。
「横領だの偽造だの、警察汰になりそうな話に巻き込まれちゃ敵わん。亮介ちゃんへの資の話も、全部なかったことにしてくれ」
「そ、そんな! 叔父さん、待って! 族でしょう!?」
義母の痛な叫びを無して、親戚たちは荷物をひったくるように持ち、逃げるように広をてった。
襖がくたびに、仲居たちの怯えた線が差し込む。
数分まで「の繁栄」を謳していた豪奢な宴席は、見るも無惨な瓦礫のと化していた。
畳ので息を荒らげ、互いに殴りって顔を腫らした夫と亮介。
その横で、膝を抱えて号泣する真理さん。
そして義母が、鬼のような形相で私に向き直った。
震える指先を、私の先に突きつけてくる。
「織さん……! あんた、よくも……よくもをここまでめちゃくちゃにしてくれたわね!!」
義母の声は、りと屈辱で掠れていた。
「族じゃないの! あんたが黙って千万円していれば、健の会社のことだって、亮介ののことだって、全部丸く収まったのよ! あんたがをし渋ったせいで、健のも、亮介の未来も、私の誇りも全部おしまいよ! 族なのに、おのことでそこまでするなんて、あんたには血も涙もないの!?」
私は、元に散らばった刺の残骸を踏まないよう、ゆっくりと歩引いた。
そして、酷に澄み切った瞳で、義母を見据えた。
「族だからこそ、の財産を騙し取っていい理由にはなりません」
私の声には、片の揺らぎもなかった。
「、私が血の滲むいで守ってきたおです。あなたたちの見栄のためでも、犯罪の穴埋めのためでもない。自分のの責任を自分で取れないを、なぜ私がをかけて養わなければならないのですか?」
「あ、あんた……!」
義母は言葉を失い、喉をヒクつかせながらそのにへたり込んだ。
加賀友禅の着物の裾が、こぼれた醤油で黒く汚れていく。
世体という名の仮面が、完全に々に砕け散った瞬だった。
私はレザーファイルを鞄にしまい、コートを腕にかけた。
これ以、この沼に留まる理由は秒もない。
背を向け、へと歩きした私の首に、たいがすがりついてきた。
「織……っ!」
見ろすと、唇から血を流した夫が、畳をいずりながら私のスカートの裾を必に握りしめていた。
涙とでぐしゃぐしゃになった顔。
課としてのプライドも、男としての威厳も、すべてが剥ぎ取られた、惨めな男の顔だった。
「頼む……織、かないでくれ……! 悪かった、俺が悪かったよ! 全部認めるから……は円も求しないから! だから、見捨てないでくれ……! おにられたら、俺は……会社もクビになって、親戚にも見捨てられて、本当に何も残らないんだよ……!」