"「寝かせた金」と呼ばれた一千万円" 第10話
お、みすぼらしい格好で来るなよ。の男の妻として、恥ずかしくない格好をしろ」
夫はスーツの襟をえながら、値踏みするように私を見た。
「あの類のことは、もうに流してやるよ。女の浅恵で張りたい気持ちも分からなくはないが、は族のれ台なんだ。の対応を見せてくれよな」
の対応。
のを盗む算段をてておきながら、この男はどこまでも「寛な夫」を演じようとする。
反吐がそうだった。
「ええ」
私はバッグを抱えたまま、く微笑んだ。
「の対応を、しっかり見せてあげるわ」
「おう、そうこなくっちゃな!」
夫は満そうに肩を揺らして笑った。
その背に向かって、私は胸の奥で静かにカウントダウンを始めた。
曜、午分。
初のい差しが照りつける、私は指定された料亭のをくぐった。
入れのき届いた本庭園の奥に佇む、格式い数寄造りの建物。
玄関で靴を脱ぎ、仲居に案内されて廊をむ。
坪庭を臨む番奥の広。
引き戸の向こうから、すでに親戚たちの賑やかな笑い声が漏れ聞こえていた。
「の男と次男が揃って物になるなんて、久美子さんもがいねえ!」
「亮介ちゃん、昔から領が良かったからね。駅の等にをすなんてしたもんだ!」
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引き戸にをかけ、私は息をひとつ吸い込んだ。
ガラリと戸をける。
部の央には、数が座れるテーブルが据えられていた。
座の央に陣取っているのは、艶やかな加賀友禅の着物にを包んだ義母、久美子だった。
その隣には、すでに何杯か本酒をあおって赤ら顔になった夫。
隣には、級そうなオーダーシャツを着崩し、自信満々の笑みを浮かべた亮介。
そして亮介の斜めろに、真理さんが座っていた。
伏せられた線。
膝のでく握りしめられた拳。
私と瞬だけ目がったが、真理さんはさく顎を引くだけで、周囲には切気取らせなかった。
「あら、織さん! 遅かったじゃないの!」
義母が甲い声を張りげ、扇子で招きした。
周囲の親戚たちの線が斉に私へ突き刺さる。
「まあまあ、主役の登ね! さあ、ってないでここへいらっしゃい。あなたの席は、健の隣、番座に決まってるんだから!」
義母の言葉に、親戚の叔父たちが囃してる。
「織さん、健から聞いたよ。亮介のために千万円もポンとしてくれたんだって?」
「いやあ、派な嫁さんをもらったもんだ。子どもがいない分、族のために尽くしてくれるなんて、の鑑だよ!」
親族たちの無責任な賞賛。
私のであることがであるにも関わらず、誰も私個への敬など払っていない。
ただ「に都よくを提供する便利な装置」として褒めそやしているだけだ。
夫がビールグラスを掲げながら、得げに私を招きする。
「ほら織、く座れよ。みんな待ってたんだから」
私は何も言わず、促されるまま夫の隣の席に腰をろした。
膝のには、黒いレザー調のファイルを置く。
義母が嬉々としてビール瓶をに取り、私のグラスに酒を注ごうとした。
「さあ、まずは乾杯しましょう! 今はね、亮介のを祝うと同に、の団結を親戚にお見せする素らしいなんだから!」
「お義母さん」
私はグラスにを添え、注がれようとするビールを遮った。
「乾杯のに、皆様にどうしてもお伝えしなければならないことがございます」
広の空気が、微かに揺れた。
義母が眉をひそめ、満げに元を歪める。
「なによ、織さん。改まっちゃって。挨拶なら乾杯のにいくらでも――」
「今、話さなければならないことです」
私は子の背筋を伸ばし、広に集まった数の親戚たちの顔をゆっくりと見渡した。
ひとりの目を見る。
そして、静かにちがった。
「おい、織、何ってんだよ。座れよ」
夫が焦ったように私のスーツの裾を引いた。
私はそのを、たく振り払った。
「つだけ、皆様ので確に訂正させていただきたい事実がございます」
私の澄んだ声が、静まり返った部の隅々まで響き渡る。
「私は、亮介さんのカフェ業資として、千万円を資するという約束など、神に誓って、度もしておりません」