"妻を平手打ちした夫が、30分後「娘には言うな」と懇願した" 第18話
「お引き取りください。応じていただけない、ビル管理規約に基づき警備員を呼び、退命令をします。それでも居座られるなら、警察へ建造物侵入として通報いたします」
栗原弁護士の事務で容赦のない宣告に、芳の顔が赤から気へと変わっていった。これまで「男の母」「元役員の未」という内だけの絶対権力に胡座をかいてきた女にとって、社会の法制度という分い壁は、度も殴ったことのない頑丈なコンクリートそのものだった。
「浩……! あんた、何か言いなさいよ! 母親を追いす気なの?!」
芳がすがるように息子の腕を掴んだ。だが、浩はそのを力なく振り払った。
「……おふくろ、で待っててくれ」掠れた声だった。「頼むから……もう、余計なことを言わないでくれ……」
「浩……!」
事務所のスタッフに促され、芳は憎々しげに私と結を睨みつけながら、を踏み鳴らして部をてった。い防音扉が閉まり、会議に静寂が戻る。
残された浩は、パイプ子に崩れ落ちるように座った。向かいに座る結の顔を度も見ようとせず、両を膝ので固く握りしめている。
「佐藤浩さん」栗原弁護士が、部印刷された『婚協議案』をテーブルの央に滑らせた。
「すでに内容証および事送付類でご確認いただいている通り、本件は貴殿による貞為、ならびに責たる暴力為を原因とする婚協議です。
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条件について最終の読みわせをいます」
栗原弁護士が指先で条項を追っていく。
、協議婚のおよび届の期。、貞およびDV暴力に対する慰謝料として、百万円の支払い。、自宅産の売却に伴う清算の分割、ならびに婚姻期の預貯の折半。、婚姻期に対応するの按分割を〇・とする分割。
徹な数字が、淡々と読みげられていく。夫がかけて築きげたはずの「資産」は、法な計算式によって、寸分の狂いもなくつに切り分けられていく。
「……待ってくれ」
浩が震える声で遮った。脂汗が額から垂れ、机のにポタリと落ちる。
「慰謝料百万なんて、払えるわけがない……! 会社は俺を関連会社へ遷することを決めたんだ。役職当は全額カット、基本も割減額だ……! 退職の規定だって、コンプライアンス違反で幅に減額される見込みなんだぞ! を売っただって、宅ローンの残債を払えば元にほとんど残らない!」
「それは貴殿の内部事であり、法為責任の免責事由にはなりません」栗原弁護士が即座に切り捨てる。「分割払いの計画案も記載してあります。与債権の差押えを回避したいのであれば、この案にされるのが最も現実です」
「美紀……!」
浩が顔をげた。
充血した目から、粒の涙がぼろぼろと溢れし、頬を伝っていく。かつて庭内で絶対な君主として君臨し、若い女ので虚勢を張って妻を殴り倒した男の面は、どこにもなかった。
「美紀、悪かった……本当に俺が悪かった! 頼むから、やり直してくれ! も、も、通帳も全部おに渡す! 川とは完全に切れた! あいつは総務に俺の悪を並べてて、自分だけ部署に異して逃げやがったんだ! あんな女、最初から何でもなかったんだよ!」
唾をばしながら懇願する夫の姿を、私はただ、見つめていた。何のも湧いてこない。りも、しみも、憐れみすらも。ただ、目ので喚いているのが、という歳を共にしたであるという事実が、議なほどい来事のようにじられた。
「美紀……結のためにも、考え直してくれよ」
浩のから、最悪の言葉が滑りた。
「結だって、父親がこんな形で社会に抹殺されて、両親が沼で婚したなんてことになったら……結婚する、相のにどうわれる?! 『あそこの父親は問題を起こして遷された』なんてられたら、結の将来に傷がつくだろう?! 結をしているなら、ここは何とか内輪で収めてくれ……!」
その瞬だった。
私の隣で、パイプ子がギリッと甲い音をてた。
結が、ちがっていた。
両をテーブルに叩きつけ、父親の顔を真正面から見ろしている。