"妻を平手打ちした夫が、30分後「娘には言うな」と懇願した" 第11話
と促した。私は再ボタンを押した。
スピーカーから、啜り泣くような浩の声が流れてきた。
『美紀……浩だ。本当にすまなかった。結から全部聞いた……俺は本当に愚かなだ。おを傷つけ、結を傷つけ、自分がどれだけ恵まれていたかも分かっていなかった。……やり直したい。もう度とおにはをげない。川とも完全にを切る。会社も辞めたっていい。頼むから、もう度だけチャンスをくれ……俺たち、も緒にやってきたじゃないか……』
涙声で懇願する夫の声。かつての私なら、この声を聞いて「私がすれば、やり直せるのかもしれない」と揺らいでいたかもしれない。だが、今の私のには、さざ波つたなかった。これは反省ではない。すべてを失う恐怖に怯えた子供の、ただの駄々だ。
「茶番ね」直子がたく吐き捨てた。「自分が追い詰められただけ、被害者のふりをする」
そのだった。
直子のスマートフォンが、ピコンとい通音を鳴らした。画面を見た直子が、急に目を見き、息を呑んだ。
「……美紀」
「え?」
「これ……ちょっと見て」
直子の顔が、りで真っ青に染まっていた。差しされた画面には、LINEのトーク画面が表示されていた。直子と共通の友であり、夫の親戚筋とも繋がりのある病院関係者からの転送メッセージだった。
送り主は――『佐藤浩』。
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送信先は、佐藤の親族以が参加している『佐藤親族グループ』だった。
送信刻は、先ほどの泣き崩れるボイスメッセージが私に届いた、わずか分。
そこに並んでいたのは、文の、恐ろしく計算され尽くしたメッセージだった。
『親族の皆様へ。夜分遅くに突然のメッセージ、申し訳ありません。実は昨夜、弊社の記祝賀会において、変お恥ずかしい騒が起きてしまいました。すでにごの方もいらっしゃるかもしれませんが、妻の美紀が、以より更期障害に伴う精神定を患っており、緒が著しく乱れる々が続いておりました。昨夜も、会において私の部の女性社員に対し、根拠のない被害妄から突発に声を浴びせ、掴みかかろうとする事態となりました。私は会の混乱を収め、妻を制止しようと必で引きしたのですが、その際、私の際により、妻の顔にが当たってしまいました。いかなる理由があろうと、妻を傷つけてしまった私の責任はであり、く反省しております。現、美紀はがぶり、娘の結を連れてをてしまい、私の連絡を拒絶している状態です。親族の皆様にはなるご配をおかけしますが、病気の妻を責めることなく、医療関と連携しながら、族として支えていく所です。
どうか温かく見守っていただければ幸いです』
スマートフォンの画面を見つめたまま、私の全から血の気が引いていった。
喉の奥がカラカラに乾き、指先が凍りつく。
更期による精神定。根拠のない被害妄。部への方な攻撃。そして、それを必で止めようとした夫の「際」。
泣きながら「やり直したい」と私に縋り付いてきた、その裏で。この男は、親族全員に対して、私が「狂った妻」であり、自分は「狂乱した妻を必で庇う劇の夫」だという筋きを、完璧にばら撒いていたのだ。
画面の部には、義母の芳による追記がっていた。
『浩、あなたは何も悪くありませんよ。病気のを相にするのは変でしょうけれど、佐藤の男として派に対処しなさい。親族同、あなたを応援しています』
臓が、鐘のように激しく脈打つ。りを超えて、全の毛穴が逆つような悪寒がった。
この男は、反省などしていない。最初からミリも、自分を悪いなどとっていないのだ。
「……美紀」直子が私の肩をく抱きしめた。「絶対に許しちゃダメ。この男、じゃないわ」
私は元の診断を、指がくなるほどく握りしめた。いが、ピシリと鋭い音をてて折れ曲がった。
指先に伝わるのさだけが、私が現実と繋がっている唯の証拠だった。
胃の底から、苦い胃液が喉元までせりがってくる。吐き気を押し殺しながら、直子のスマートフォンの画面を凝した。