"正月の料亭で仲居に渡された「逃げてください」の紙切れ" 第4話
の仮面を被ろうとする、底れぬ浅ましさだけがあった。
喉の奥から、乾いた笑いがこぼれそうになる。
「私の仕事の働き方を……あなたたちが勝に決めたの?」
「勝にっていうか、族会議で……」
「その族会議に、当事者である私は入っていなかったじゃない!」
初めて声を鋭く尖らせると、夫はびくっとを竦めた。
「な、なんだよ、そんなるなよ。今、ちゃんと親戚ので紹介して、みんなで『よろしく頼むよ』って言えば、おだって誇らしいだろ? 男の嫁として、親戚から謝されるんだぞ?」
「謝……?」
全の血が逆流するような覚。
「私が以積みげてきたキャリアを捨てて、パートになって、義母の病院通いと買いしの運転をすることが、どうして『謝』で片付くの? 親戚ので断れない状況を作って私を追い詰めることが、族のすることなの!?」
「だから、げさに言うなよ! 正々、恥ずかしいだろ! 親戚のみんなももう揃ってるんだから、とりあえず部に来いよ!」
夫が私の腕を掴もうとを伸ばしてきた。私はそのを、い切り振り払った。
「触らないで!」
「おい、真由美……!」
夫が苛ちをわにして眉を吊りげた、その瞬だった。
「あら、ずいぶん賑やかなお正ね」
廊の角から、コツコツと履の音を響かせて、の女性が歩いてきた。仕ての良い訪問着にを包み、勝ち誇ったような笑みを唇に貼り付けた義姉――美智子だった。
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義姉は夫のけない姿を瞥すると、呆れたようにため息をつき、私へと向き直った。そのには、綺麗につ折りにされた枚のA4用が握られている。
「修、あんたじゃ話がまないわね。……真由美さん、廊でち話も何だから、広にきましょう? みんな待ってるわよ」
「きません」
私が即座に言い放つと、義姉の眉がピクリとねた。けれどすぐに、嘲弄を孕んだ笑みに戻る。
「そんなを張らないの。男の嫁として、お母さんの面倒を見るのは当たりでしょう? ほら、これを見てちょうだい」
義姉は持っていた用を、私の目のにこれ見よがしに広げて見せた。
「ちょうどよかったわ。からの、お母さんの通院と活サポートのスケジュール表よ。私たちがわざわざ作ってあげたんだから、ありがたく受け取りなさいな」
印刷されたそのの最部には、太いゴシック体でこう印字されていた。
『子様 週介助計画表(以)』
そして、曜から曜までのすべての枠に、黒々とした文字で、ただつの名だけがびっしりと埋め尽くされていた。
――『担当:真由美』。
くるA4用ので、私の名だけが黒々と浮きがっていた。
『子様 週介助計画表(以)』
タイトルをなぞる線が、そのままへと滑り落ちていく。細かく区切られた割。
エクセルで作られたらしいその表は、几帳面なほど然と、私の常を塗りつぶしていた。
曜。午、形科へのでの送迎、付き添い、調剤薬局での薬の受け取り。午、義母宅の掃除、洗濯、布団干し。
曜。午、内科定期検診の付き添い。午、スーパーでの料品買いし、分の作り置き調理。
曜。午、や役所関係の続き代、ゴミし、否確認。
曜と曜の欄には、申し訳程度にさな文字が添えられているだけだった。
『曜:修(〜回、様子見程度)』『曜:美智子(回、話連絡)』
平のすべてが、私だった。朝から夕方まで、びっしりと私の名で埋め尽くされている。
「……何よ、これ」
喉の奥から、乾ききった掠れ声が漏れた。指先がたく張り、を持つが刻みに震える。
表の最部、隅の余に目を留めた瞬、息が止まった。米印のついたさな注き。
『※本には正の親族会にて説、承を得る予定』『※よりパート勤務への移続きをめさせること』
承を、得る予定。め、させること。
まだ私の言の承諾も得ていないので、私はすでに正社員を辞めさせられ、週の無償介護員として配属されていた。まるで見積に判を押すの、社内稟議の捨て駒のように。
「どう? よくできてるでしょう?」
義姉の美智子が、満げに顎をしゃくった。