"「月5万払うから」離婚した私に介護を頼む元夫" 第10話
『おみたいに親を事にできない女とはやっていけない』ってな」
……は?どのが言っているのだろう。
玲奈に同居を拒絶され、半を突きつけられたくせに、自分のプライドを守るために「自分から捨ててやった」と嘘をつく。から、何つ変わっていない。
「母さんもさ、反省してるんだよ」
健はポケットからハンカチを取りし、額の脂汗を拭った。
「今だって、朝から血圧ががったって寝込んでてさ……。どこの病院に連れてけばいいのかも分からなくて、所の医者に駆け込んだら『いつもの先の紹介状は?』なんて鳴られて散々だった。処方箋を薬局に持っていっても、お薬帳がないと確認にがかかるって待たされて……。のはゴミだらけだし、母さんは『お腹が空いた、うどんを作れ』って泣き叫ぶし、俺、もう会社どころじゃないんだよ!」
るか、そんなこと。それはすべて、、私が毎当たりに背負っていたタスクだ。
「美、おなら全部に入ってるだろ? 母さんの好きな付けも、どこの病院のどの先がいいかも、全部ってる。俺が悪かったよ。おがやってくれてたこと、しは謝してる。だから戻ってきてくれ。今ならまだ、親戚にも『ちょっとした夫婦喧嘩だった』って言い訳がつから」
健はそう言って、テーブル越しに私のを握ろうとを伸ばしてきた。
広告
私はそのを、で引き、たく見据えた。
「健さん」
「な、何だよ……照れるなよ」
「あなたが戻ってきてほしいのは、私じゃないでしょう」
健の卑屈な笑みが、ぴたりと凍りついた。
「え……?」
「私の顔を、ちゃんと見て」
私は背筋を伸ばし、言言、刃物を研ぐように言葉を紡いだ。
「あなたは、私の何をしていたの? 私が何を好きで、どんな本を読んで、仕事でどんな苦労をして、何に傷ついていたか、つでも言える?」
健はをパクパクとかしたが、声はなかった。
「言えないでしょうね。興がなかったんだから。あなたが求めているのは『佐伯美』というのじゃない。朝起きれば温かい朝を用し、母親の面倒を文句も言わずに引き受け、文句も言わずにを使い潰し、あなたの世体と適な暮らしをタダで保証してくれる、都のいい政婦でしょう」
「ち、違う! 俺はおを……!」
「違わない」
遮る私の声は、喫茶の喧騒を切り裂くほど静かで、徹だった。
「玲奈さんに逃げられ、母親の介護という現実が自分の肩にのしかかってきたから、慌てて過の無料の労働力を買い戻そうとしているだけ。万? 復婚? ふざけないで」
「美、言い過ぎだろ! 俺は男のプライドを捨ててここまでをげてるんだぞ! しは夫をてる気はないのか!?」
逆ギレ特の、勝な声。
周囲の客が、ちらりとこちらに線を向ける。かつての私なら、周囲の目を気にして俯き、健をなだめようとしていただろう。だが今の私には、守るべき世体など佐伯には欠片も残っていない。
「てるべき夫は、もうここにいません。目のにいるのは、過ぎの母親の活すらで回せない、ただの男性です」
「なっ……!」
「度と私に連絡しないで。復婚なんて、がひっくり返ってもあり得ない。次に私のに現れたら、弁護士をてて接禁止の仮処分を申請します」
私はバッグから千円札を枚取りし、伝票のに置いた。
「お茶代です。お釣りは取っておいてください。これから介護費用で変でしょうから」
席をつ。背から「待てよ美! 美!!」とけない叫び声が追いかけてきたが、私は度も振り返らずに自ドアを抜けた。
夜の気が、照った頬をよくましていく。胸の奥に広がっていたのは、驚くほどの静けさだった。、私のを縛り付けていた見えない鎖が、完全に砕け散った瞬だった。
だが、この劇はこれで終わりではなかった。
翌の曜。私は居の片付けを終え、くのコインランドリーで毛布を乾燥させていた。回るドラムをぼんやりと眺めていると、スマートフォンのバイブレーションがく震えた。
見らぬ携帯番号からのショートメッセージ。